14・ユウシャ

 おや、だれかと思ったら、とモニターの中の店主が言った。

 話しかけなければキカイは話すことはない。

 だけど、ヒトとキカイがお互い話をしているときには、キカイはヒトと同じような感情を持っているように思える感じで、動くことができる。

 広いほうのの公園の近くにあるコンビニとおなじ顔の店主。

 たぶん設定は40代はじめくらいで、ヒトだったら結婚して、子どもがいてもおかしくないような感じ。

 店主のリアクションは明らかにすこし嘘が混じった、驚いたような感じだった。

 あの山の上のほうまで行くのか、けっこう頑張るね。

 いろいろ聞きたいことはあるんだけど、教えてくれにそうにないことばっかりなんですよね、とナツミは言った。

 たとえばこの道を通るヒトってけっこういるんですか、みたいな。

 ヒトか、ヒトねえ、まあいないことはないよ。

 みんなのクーラーの充電とか、ここでなんとかしてあげるよ、と店主は言った。

 バッテリーの残量は思ったよりすくなかったので、4人はそろって外して店主に渡し、すみっこにある4人掛けのテーブルと椅子に座って冷たい飲み物を飲んだ。

 みんなの電信マネーの残額は1779ポイントになった。

 このセカイに関してもっともありそうな考えは、ヒトとキカイの戦争があったんじゃないかと思うんです、とミユキは言った。

 ミユキは4人の中でいちばん嘘をつくのがうまい。

 そしてほかの3人が、ゲームや、ネットフレンドとの交流や、顔出しをしない動画づくりをしている間に、ミユキはなにやらネットの小説投稿サイトに物語を書いているらしい。

 どんなものを書いているかは教えてくれないのであるけれども、剣と魔法と魔王と勇者がいる、わりと普通の異世界ファンタジー、とか適当にごまかしている。

 普通というよりかつてよくあった物語かな。

 その異世界というのは、たとえば高校生の学園ラブコメとくらべても異世界度が高いというわけではない。

 ミライ部の旗を指差しながら、ミユキは言った。

 今の私たち4人が異世界ファンタジーの登場人物だとしたら、コハルが盾役の剣士かな。

 それに対して、ナツミは、違うんだよ、と反論した。

 この旗は、上のほうに魔王がいるんじゃなくて、下のほうにいると考えるべき、と、アキラも言った。

 つまりナツミが勇者でコハルは治癒に特化した防御魔法つかい。

 で、自分は剣士なんだよ

 でもってミユキは攻撃支援魔法つかいね。

 魔法使いと剣士が2人ずつというのは、わりとバランスが取れている気がする。

 できればまあシーフ、盗賊とか、なんだっけ、アサシン、暗殺者とかもいたほうががいいんだけど。

 それじゃあ私は、忍者ということで、と、ミユキは言った。

 どっちの役目もできるから。

 えーっと、それだったら魔法忍者というのはいいかもしれないな、と、ミユキはぶちぶち言いつづける。

 なるほど、ということでみんなも考えてみたけど、勇者チームが戦う相手は基本的にはこのセカイにはいそうにない。

 つまりキカイはヒトを傷つける存在ではない。

 昔はともかく今は無理なのである。

 センセイが魔王だったらなあとよナツミは例によって大胆なことを考えて口にした。

 だとすると我々は夏休みの自由研究で魔王をやっつけに行くという物語が作れるかもとミユキも言った。

 そうすると、このセカイはキカイの魔王が支配しているセカイで、ヒトはもうそれに逆らうことができなくなっているという想定をしてみよう、とアキラが言った。

 やはり我々に必要なのは仲間とか友達じゃなくて、すごい敵だってことだよね、とコハルも言ってみた。

 でもそれって子どもの夏休みの自由研究にしてはスケール大きすぎないかな。

 ごもっともである。

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