11・マセキ

 自転車に乗り始めて最初に休みたい、じゃなくて止まってほしい、って言ってきたのはミユキだった。

 正確にはミユキは路肩からすこし離れたところに咲いている草花を目にして、もっと近くに寄って観察したいと言ったのだった。

 自由研究という名前にしてある自転車旅行をはじめてから15分ぐらいたったところだろうか。

 路肩は両わき1mほどの幅で綺麗に短く刈られている。

 けれどそこから奥のほうは、黄色と紫の花が入り混じって群生していて、その隣では白くて細い骨のような草が風になびいていた。

 これはキク科とセリ科、それにススキですね、とミユキは言って、携帯端末のカメラを近づけた。

 レンズを向けて画像をおさめ、すぐに画像検索をすると、立ちどころにそれらの草花の正式名称がわかる。

 キクとセリほどではないけれど、もっと珍しい草花も、ミユキ基準ではあったらしく、そういうのはひとつひとつていねいに抜いて、背中に背負っていたミニバッグに、植物採集用の紙(新聞用紙と言って、昔は大量にあったらしいけど、今は通販で頼まないといけない)にはさんでいった。

 その作業はけっこう時間がかかっていて、飽きっぽいナツミは雑草をぶちぶちと、みさかいなしに刈り取っている。

 コハルとアキラは、コハルが用意した、いつもの愛用の日傘ではなく、やや小さめの折りたたみの日傘に一緒に入って、水分補給をしていた。

 本で読んだ知識では、こういうときには、ち、近い、って言うんだっけ、と、コハルは思ったけれど、別にドキドキはしてこなかった。

 体がようやく、ぼちぼち走ることに慣れてきたところを止まったせいで、どうも頭がぼんやりしてしまう。

 新道沿いに、荒れ地の草原はずっと先のほうまで続いていて、湖の近くではまた別の、さまざまな植物が生えているように見えた。

 昔は、このあたりでもコメを作ってたんだよな、コメってわかるかなぁ、とアキラは言ったので、コハルはすこしむっ、とした。

 コメはヒトが食べる主食で、白い細長いつぶつぶで、炊飯器で炊くとふっくらと柔らかいご飯になって、冷やしご飯も別にまずくはない。

 コンビニだと、いろいろな具が入ったおにぎり、みたいな、冷やしご飯をノリで巻いたものが売られている。

 しかし、この草原いっぱいでコメとは。

 コハルが知らない時代には、いったいどれだけの数のヒトがいたんだろう。

 この季節にはまだ秋の花は咲いていないし、春の花は終わっている、とアキラは言った。

 とはいえ、葉や根でも、加工するとクスリや、料理の香りづけに使えるものはあるから、お菓子作りとか趣味のミユキは他の3人より楽しんでいるようだった。


     *


 雑に草刈りをしているように、コハルには思えたナツミだったけれど、いいもん見っけ、と、片手でなにかをつまみながら、コハルたちのところに戻ってきた。

 細長くて、両端がとんがっている、1センチぐらいの草木のタネのようなもの。

 しかし、ムラサキ色で太陽の光に照らされて輝くそれは、宝石とか、なにかの結晶のようだった。

 魔石、とそれに名づけたナツミは、熱心に探しはじめると、すぐに数個ぐらいの、色ちがいの結晶(魔石)を見つけた。

 買い取り屋に高値で売って、武器と防具を揃えようぜ、とナツミは言うけど、買い取り屋も武器・道具屋も、近所のマチにある、みたいな情報は、コハルは知らなかった。

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