”恋人”は、花の香りに誘われて 3

 花弁を狙った途端にこの反応……そこを狙われたらまずいと教えてくれているようなものだ。


 そこは再生できないから?

 それとも臭気を発生できなくなるから?


 ……意外とありそう。よしっ! これから狙いを花弁に定め……



「ぁっ、ヤバッ……んグゥッ!?」


 ・あっ……

 ・これは逝ったか?

 ・バラエティ番組みたいなww



 【グラン・ジュテ】の空中ジャンプを使ってもなお避けきれない蔦の追撃がヒット。


 地面へと叩き落とされた私は直後にメガブルモスにはね飛ばされ、さらにその先にいたゴアトルスに啄まれて命を散らしたのだった。


 ギャグマンガかよと思えるほどに綺麗な一連の流れ。ギャグ路線で行く気はないから勘弁してよね!



        ♢♢♢♢



「よーし、なんとなく攻略の目途が立ってきたわね」


 ・切り替えの早さよ

 ・目途立ってるのか? これ

 ・これだけ何回も死んでも衰えない闘志よ

 ・負けず嫌い発揮してる

 ・カローナ様がこれだけやられるのは初めてみたわ



「当然、負けたまんまで終われないからね」



 実に6回目のリスポーンをした私は、簡易テントの中でチャートを組み直す。


 ……といっても、まず花弁が再生可能なのかを調べるのが先決かな。再生できるのなら先にモブを潰さないといけないし……再生しないのならいきなり斬りかかるけど。



 装備の耐久値を確認しつつ、そんなことを考えていると、ちょうどカルラが【座標転移テレポート】で戻ってきた。



「お帰り、カルラ」


「ツカレタ……」


「ま、ずっと魔法を使い続けてるからね……ポーション飲んでちょっと休みな?」



 MPポーションの蓋を開けてカルラに向けてやると、カルラはそこに嘴を突っ込んでポーションを飲み始める。



「でも本当助かるわ。カルラがいなかったらここまで戦えてないし」


「マズ、カテソウニナイアイテニタタカイヲイドムノヲヤメタホウガイイトオモウ」


「うぐっ……それはもっともで……」


 ・それは草

 ・ついにカルラちゃんにまで言われたww

 ・やっぱりみんな脳筋だって思ってたんだ……



「まぁでも、確かに簡易テントの使用回数も半分切ったし……オッケー、次のアタックで決めてやるわ」


「……サクセンアルノ?」


「それは一旦戦ってから考える!」


 ・草

 ・そういうところだぞww

 ・カルラちゃんも呆れてるww

 ・カラスってこんなに表情変わるんだな



「仕方ないでしょ! 検証しないと分からないところがあるんだから! というわけでカルラ、私が合図したら魔法ストップしてくれる?」


「ナンデ?」


「花弁を落としに行くから、私がカルラの魔法に巻き込まれたら困るでしょ。その時は単発の魔法で私を狙う蔦を打ち落とせる?」


「ワカッタ」


「よっし、じゃあ行きましょうか」



 装備を『ブリリアンドール』シリーズに変更し、ブリリアンドール・ナイフを両手に装備。ついでに、『禍ツ風纒まがつかぜまとい』を発動しておく。


 強化状態『禍ツ風纒まがつかぜまとい』によって私の身体は黒緑の風に包まれ、多少の臭気を弾いてくれるだろう。



「カルラ、お願い!」


「シカタナイナァ……」


 どこか辟易した様子のカルラに運ばれ、私は7度目の"恋人ザ・ラバーズ"戦へと向かった。














「っ……!」



 カルラから離れ落下する私は、そのまま残し勢いで"恋人ザ・ラバーズ"の蔦を数本斬り落とす。


 ちょうど落下地点にいたヒクイドリをクッションに着地し、【マキシーフォード】を発動。呼吸を整えるため、一旦"恋人ザ・ラバーズ"から離れる。



 ちょうどそのタイミングで、カルラの発動した竜巻が"恋人ザ・ラバーズ"を包み、臭気を纏めて上空へと吹き飛ばした。



「カルラ、ナイスタイミング!」


「カ———ッ!」


「ブモォォォッ!」


「おっと」



 着地するタイミングで私を狙うつもりだろうか。足場にしたヒクイドリにトドメを差した私めがけ、メガブルモスが───


 あっ、こいつさっき私をはね飛ばしたやつだな!?

 この恨み、晴らさでおくべきか!



 自慢の牙を向けて突っ込んでくるメガブルモスの軌道を確認しつつ、【レム・ビジョン】、【クロワゼ・デリエール】を発動。


 回避行動を取る【クロワゼ・デリエール】によって横へズレた・・・私の身体を、メガブルモスはとらえることができず、そのすれ違い様───



「【トゥール・アン・レール】!」



 回転と同時に、無数の斬撃を浴びせる。

 性能が良くなったブリリアンドール・ナイフと『禍ツ風纒まがつかぜまとい』のステータスアップを合わせれば、ただの斬りつけでも十分なダメージだ。


 数秒と経たず全身に裂傷を刻まれたメガブルモスは力なく倒れ───そのメガブルモスを狙った"恋人ザ・ラバーズ"の蔦が殺到する。



 まーた私が倒したモンスターを奪おうってのか、この欲しがりさんめっ!



「そんなに欲しいならくれてやるわ!」



 “黒く、くろく、くろく、蒼穹覆う黒の迦楼羅天”———『鴉天狗』、起動!



「“妖仙流柔術”———【山嵐】!」



 倒れたメガブルモスを無造作に掴み、ぶん投げる!

 3mを超える巨体が驚くほどのスピードでぶっ飛び、"恋人ザ・ラバーズ"の茎に直撃する。


 が、元々が柔軟性に富んだ構造の相手だ。妖仙の技で投げられた大質量も受け止めてしまい、ほとんどダメージはない。



 けど、狙いはそこじゃない。

 メガブルモスを受けとめ、捕食するのに、相当数の蔦をそちらに咲かなければならない。その瞬間は、花弁を守る蔦の壁が薄くなる!



「【シークエンス———」



 刹那──【グラン・カブリオール】の大ジャンプを起点に、【グラン・ジュテ】、【グリッサード・プレシピテ】で宙を翔けた私は、カルラが放つ風の壁を突き抜け、すでに"恋人ザ・ラバーズ"の花弁に手が届く距離にいる!



「———エッジ】!」



 すれ違いざま、両手に握ったブリリアンドール・ナイフの2連撃が一番外の花弁の付け根にヒットし、完全に斬り落とした。



「ツッコムナラアイズシテ」


「ごめん、チャンスだったから!」



 そのまま空中ジャンプで"恋人ザ・ラバーズ"から離れた私は、カルラにキャッチされながら呆れた声を掛けられる。カルラからすれば、まだ風の魔法がある状態で私がそこに突っ込んでいったからね、ビックリしちゃったのだろう。



「それより、あいつの様子は!?」



 ひらひらと舞い落ちる一枚の花弁。

 蔦を荒ぶらせ、周囲のモンスターを貪る"恋人ザ・ラバーズ"。

 その花弁は———



 ———再生することはなかった。


 攻略の道筋、見つけたり!

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