スピードの向こう側へ——!
———”
『妖気解放』、発動!
瞬間、私の背中から黒翼のエフェクトが弾け、まるで翼が生えたかのように私を彩る。
皮膚はほんのりと黒く変化し、どこか梵天丸さんと似た雰囲気に変化した。
この翼は妖気───実態の無いエネルギーでできているため、これで飛ぶことはできないけど空気抵抗を受けることもない。
「なんですかそれ!?」
「えっ、変身とかできるのこのゲーム!?」
・なにそれ知らない
・妖気解放って何!?
・翼生えたww
・褐色姫騎士……だとっ……!?
・あぁぁぁぁ、それは俺にぶっ刺さる!!
荒ぶるコメント欄を横目に、限界まで息を吐き出し、その後胸いっぱいに息を吸い込む。
スゥッと頭の中がクリアになり、視界が色褪せ、集中力が研ぎ澄まされていく。
私が集中するときに行う、いつものルーティーンだ。
ユニーク
大妖怪の名を冠するその
しかし、『妖気解放』を行った時、その真価を発揮する。
常時全ステータスアップに加え、
ちなみに一番扱いに苦戦したのが、この加速力上昇である。
初速がトップスピードというアホみたいな加速に加え、AGIが2倍ぐらいになってるんじゃないのかと思えるほどのえげつない速度……扱えるようになるまでどれだけかかったか……。
しかし、それら全てを糧に、『鴉天狗』は今一度大空へと羽ばたく。
「妖気解放の制限時間は5分……いや、5分と言わず速攻で全滅させてあげるわ!」
『魔皇蜂之薙刀』を構え、私は大きく一歩を踏み出す───
「ギャッ?」
「ア……」
———瞬間、空中に描かれた数えきれないほどの赤色の華は、斬り倒されたアンガーエイプ達のダメージエフェクト。
もはや、断末魔を上げる暇すらない。
アンガーエイプ達が攻撃を認識したのは、すでに斬られた後なのだから。
木々の表面で、時に空中で跳ね回り、蜘蛛の巣のように描かれた黒紫の軌跡をなぞるように、
先に描かれた軌跡が消えぬ間に次から次へと残光を描くために、この一帯は黒紫と赤に彩られ───
『妖気解放』からおよそ1分。数えきれないほどのドロップアイテムが降り注ぐ中、すでにこの場には生きているモンスターは皆無であった。
ふぅっと息を吐き出し、『妖気解放』状態を解除する。
『レベルアップ! Lv51→54』
『アビリティ: 【レム・ビジョン】 を習得しました!』
『アビリティ: 【アストロスコープ】 を習得しました!』
『アビリティ: 【三手三棍】 を習得しました!』
『アビリティ: 【アクションステップ】 が進化しました!』
『アビリティ: 【クイックスカッフル】 が進化しました!』
『アビリティ: 【サイレントステップ】 が進化しました!』
「お、レベルアップ来た! アップルさん、グレープさん、オレンジちゃん、お疲れ様!」
「あっハイ」
「えっと……」
「お疲れ様です……?」
「いやー、何とかなってよかったね!」
レベルが上がったということは、経験値が入ったということ……つまり、バトルが終わったということだ。なんだかんだでアンガーエイプの殲滅に成功したらしい。
喜びを分かち合いたい気持ちで三人組とそれぞれハイタッチを交わすが……なんだかノリが悪いなぁ。
「視聴者さん達、見てました? ユニーク
・見てたけど見えなかった
・速すぎてカローナ様がほとんど映ってないのよ
・カローナ様とハイタッチ羨ましい……
・映ってたの残光だけだったもんね
・褐色姫騎士カローナ様がカッコかわいいしか分からなかった
「あの、カローナさん?」
「うん? どうかしましたか?」
「その、巻き込んでしまってごめんなさい……」
「え? いいのいいの! 今レベル上げにここに来てたから丁度よかったなって! むしろ急なことだったから、あなた達の顔とか名前が配信されちゃったのが心配で……」
「いえいえ! 配信中に乱入しちゃったのはこっちですし、むしろ有名人と共闘できてラッキーというか……!」
「そう言ってもらえるとこっちも嬉しいわ。あなた達もここまで来てるだけあってなかなかの実力だったわよ」
「いやそれを言うなら……カローナさんの強さって、あの配信通りだったんですね」
「配信通りというか、実際に見るともっととんでもないっスよ……」
「そりゃ、ハクヤガミ相手にノーダメ耐久できますわ……あれ何がどうなってるんですか……って、手の内を聞いたらダメか」
「あぁ、今のね。プライマルクエストで取得した『鴉天狗』ってジョブでさ、この装備も『冥蟲皇姫』シリーズっていうやつで、毒をバフに変える特殊機構が……」
「え、そんなにペラペラ喋っていいんですか!?」
「あっ……まぁいいかな? なんかテンション上がっちゃって」
てへへ……と笑う私を、その三人はポカンと見つめていた。
「カローナさんって、もっと固いというか……クールなイメージがあったんだけど、こんな感じだったんだ」
「友達みたいな距離感というか、連れに居たら楽しいだろうなって感じだよね」
「もう私、今日からファンになります!」
・落ちたな(確信)
・悪意のあるトレインじゃなくてよかった
・三人組の方も被害なさそうだし、カローナちゃんも当初の予定のレベル上げできてるし、結果オーライ?
・お前ら、乱入したらカローナ様と共闘できるとか考えるなよ?
♢♢♢♢
「今日は本当にご迷惑おかけしましたぁっ!」
「これからも頑張ってください、応援してます!」
「これからできるだけカローナさんの配信見させてもらいますね!」
「あはは、ありがとー!」
それからしばらく、この辺りの地理とかモンスターとかの情報交換を行い、三人組と別れた。
想定外の内容になっちゃったけど、レベルも上がったし素材も手に入ったし、結果的には良かったかな。
「よーし、じゃあさらにレベルアップを目指しつつ、新しく取得したアビリティと、進化したアビリティの検証ね! 視聴者の皆さん、もう少しお付き合いください。いきますよー!」
・おーっ!
・おーっ!
・おーっ!
こうして気合を入れ直した私は、再び【アドラステア原生林】の奥地へと突撃していくのであった。
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