霧隠れの霊廟リベンジ 2

 “妖気解放”———職業ジョブ『鴉天狗』、起動!


 変身・・に要した時間はほんの2、3秒程度。妖気が変化してできた黒翼が背中から生え、肌の色が日焼けしたみたいに若干黒くなってるようだ。



 職業ジョブ『鴉天狗』は、妖気が100%の時にその真価を発揮する。

 『鴉天狗』起動中、見た目が鴉天狗になるのと同時に、ステータスアップといくつかのアビリティに補正、そしてあらゆる行動の加速力を大幅に上昇する効果があるのだ。


 起動後、3秒ごとに妖気が1%ずつ減少していき、0%で強制解除となる仕様だ。


 つまり、本来この状態は300秒……5分間続くはずなのだが……


 時間経過と共に黒翼が少しずつ消えていくが、同時に生成もされている。どうも今に限れば時間制限なしで使えるようだ。



「えっ、ちょっと待って褐色堕天使系くっころ騎士??」


「いやこれ堕天使じゃなくて鴉天狗だから」


「いやどっちにしても黒い翼と褐色肌と騎士風装備のコンビネーションが最高ってことには変わらないし、元々のツンデレと相まって無敵じゃん」


「同感だ。できればヴィクトリアン装備だったら尚良かった」


「ヘルメスさんまで!?」



 何とも緊張感のない会話が続くが、それだけリラックスしているということだ。この日のために行ってきたレベリングと、新たな装備に新たなアビリティや職業ジョブの獲得、何より頼れる仲間がいる。


 それだけで、初めて【霧隠れの霊廟】に訪れた時とは大違いだ。決して根拠がある訳じゃないけど、何とかなるだろうという自信。



「さて、ここがボーダーラインだ。ここを超えれば堕龍おろちが襲ってくる。準備はいいかい?」


「問題ない」


「もちろん。今更怖気付く理由なんて全くないわよ」


「良い返事だ。さぁ、行こうか!」



 前回来たときにもあった石柱、何やら遺跡の一部のようにも見えるそれを踏み越えれば、あの恐るべき堕龍おろちが襲い掛かってくる。


 それでも。


 私達3人は、躊躇いなく大きな一歩を踏み出した。












 ずるり、と大質量が地面を這いずる音が遠くから鳴り響く。叩きつけられる無機質な殺気が頬を撫で、私達を排除せんと狙いを定める。


 しかし、この歩みを止めるには程遠い!



 【変転コンバージョン】起動!

 『魔皇蜂之薙刀』にひび割れが広がり、その隙間から紫の靄が漏れ出す。そのひび割れは薙刀を通じて『冥蟲皇姫の鎧インゼクトレーヌ・クロス』へと広がり、私のステータスをブチ上げる!


 まだまだぁ!

 【アン・ナヴァン】、【アントルシャ】、【パドル・ロール】起動!


 【アントルシャ】は【アクションステップ】から、【パドル・ロール】は【クイックスカッフル】からそれぞれ進化したアビリティだ。両方ともAGIに補正が入るうえ、攻撃を避けるたびにゴリゴリにバフが盛られていく。


 さらにさらにぃ!

 その眼は遥か星々を見通す天の瞳! 遠視力強化アビリティ、【アストロスコープ】起動!


 その眼に捉えられぬものは無し! 動体視力強化アビリティ、【レム・ビジョン】起動!



 私の両目から、スキルエフェクトによる雷光のような光が溢れる。


 この二つは、私が待ちに待った視力強化系のアビリティだ。

 ヘルメスさんに動体視力強化のアクセサリーを作ってもらうとか言っておきながらアビリティを入手してしまったのはアレだけど、これがまぁ便利なのだ。


 今まではAGIを上げるだけ上げておいて内面は強化出来ていなかったが、これでようやく私自身の性能が身体に追いついた形だ。



 5つのバフをかけたあたりで堕龍おろちが来たようだ。


 およそ10m先、濃霧をかき分けて突撃してくる堕龍おろちの姿を捉える。正面から1、斜め左右から1ずつの合計3頭。


 まるで岩のような鱗に覆われた蛇のような形で、前面に大きな一つ目があるだけの、およそまともな生物とは思えない不気味な姿。


 確かにこれは、カグラ様が『化け物』と称する理由も分かる。



 ……私が悠長に堕龍おろちを観察している理由はただ一つ。


 【レム・ビジョン】のおかげかな……止まって見える・・・・・・・



「【パ・ドゥ・シュヴァル】、【パ・ドゥ・ヴァルス】!」


 直線移動の【パ・ドゥ・シュヴァル】によって移動を開始———目から溢れるエフェクトの残光を空中に残し、地上から弾丸が発射されたかのようなスピードで左右から迫る2頭の堕龍おろちの中心に移動していた私は、【パ・ドゥ・ヴァルス】の回転を利用して薙刀を振るい、その頭を弾く。


 そして正面から来た奴には———



「砕け散れ、【兜割かぶとわかち】!」



 【大伐断】から進化したアビリティで対応!

 【兜割かぶとわかち】は、【大伐断】から進化したアビリティだ。【大伐断】同様、装甲の耐久値を大きく削る効果に加え、少なくないノックバックを与えるアビリティだ。



「っ――――――――!」


「【パ・ドゥ・ポワソン】!」



 地面に叩きつけられ、身の毛もよだつ声を上げる一頭の堕龍おろちを足場に大ジャンプ! 再び空中に身を置く私に、最初に弾いた2頭の堕龍おろちが戻ってくる。


 もちろん、それを見逃すわけがない。



 堕龍おろちがぶつかる直前、【パ・ドゥ・シャ】起動!


 空中ジャンプにより軌道を変えた私を見失い、グシャッ! ともドガァンッ! とも聞こえる激しい音を立ててぶつかる2頭の堕龍おろち


 その様子を眼下に捉えた私は、『魔皇蜂之薙刀』を腰だめに佩く。


 ここまでに使ったステップ系アビリティは、【アン・ナヴァン】、【アントルシャ】、【パドル・ロール】、【パ・ドゥ・シュヴァル】、【パ・ドゥ・ヴァルス】、【パ・ドゥ・ポワソン】、【パ・ドゥ・シャ】の7つ。


 果たして、何処まで吹っ飛ぶかな?



「【連獅子】っ!」



 【神斬舞】から進化したアビリティ、【連獅子】を2頭の堕龍おろちにぶちかます。

 刹那の間に空を薙いだ『魔皇蜂之薙刀』から衝撃波が放たれ、2頭の堕龍おろちを巻き込んで弾き飛ばす。


 【神斬舞】より範囲もノックバック性能も強化されているからか、まるで交通事故が起こったかのような炸裂音が響き、強烈なノックバックによって堕龍おろちは白い靄の向こうへと消えていった。



 反動による若干の手の痺れを感じつつ、着地して後退。

 ファーストコンタクトで完全に優性に立ったわけだけど……ここまで戦った所感を一つ。







 ダメだこれ、全く勝てる気がしない。

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