公園の少女A…私?ただ見てるだけなんですけど?

安ころもっち

噂の少女A

私はユイコ。


華道部で遅くなった帰り道、薄暗くなった公園の近道を歩いていく。

学校と自宅との間には大きな公園がある。この公園内の道を通れば20分は節約できる。でも迷ってたんだよね……


だってここ、出るんだって……

                          

この公園内は所々に街灯があるんだけど、夜が本当に薄暗くて怖い。なんでこんなに暗いのか……きっと天下り!天下りでお金をどっかに横流ししてるんだ!だからこの公園は暗いんだ!

そう結論づけた私は、恐怖から自分の足が早まるのを感じていた。


そして、噂になっているあの『出る』と言われているベンチの横を通り過ぎる。早く!帰らなきゃ!


そのベンチの方は見ない!視界に入れないように薄目になってみる……暗すぎ無理。転ばないようになんとか見える道を走る。

でも私は……なぜか分からないけどそのベンチの方に顔を向けてしまう。


そして、その4つが向かい合わせで設置してあるベンチの一つに、座ってこちらも見ている少女の霊と目が合ってしまう……


「ひっ!」

しゃっくりのような悲鳴が上がる。すぐに逃げ出したいけど足がうまく動かない。目線はそらさない……怖いから。

だって……目線をそらし逃げ出した瞬間、背中にのしかかられたら怖いじゃん?なんなら逃げたら目に前に移動してきたらもっと怖いじゃん?幽霊なんできっと瞬間移動のスキル持ちだ!


私は目線をそらさずその消えない少女と見つめ合いながら、気づけば後ろ走りで見えなくなるところまでたどり着いた。

良かった……転ばなかった自分をほめてあげたい……


あれが噂の少女Aか……


その霊を見たら死ぬとか、昼間あのベンチに座ったら死ぬとか……さすがに死ぬ死ぬ言い過ぎだとは思ってるけど、実際見てしまったのだから全身が恐怖で汗が噴き出るのを感じている。


そして私は気づいてしまう。


今って……私が振り向いたら少女Aが立っていた……なんて、ない、よね?

私は暫く振り向くことができなかった……


「ユイコ?何やってんだ?」

「ヒィィィ!!!!」

私は悲鳴を上げて飛びあがり、そのまま地べたへ座り込んだ。


「なんだよユイコ、そんなにビビって!だったら公園なんて通らなきゃいいじゃねーか」

「ヒ、ヒロ……」

私は、その聞きなれた声の主、ヒロの名前を呼んだ。


安心したが起き上がることはできなかった。そしてヒロに手ひっぱってもらい、なんとか起き上がった。


「ったく!ビビリなんだからこんな道通るなよ!っていうか遅くなったなら電話しろよ!迎えに行ってやるからよ!」

「だ、だって……うん、そうだね。次があったらよろしくね……お兄ちゃん!」

私は、さっきまでの醜態の照れ隠しに久しぶりにお兄ちゃんと言ってみた。


「な、なんだよいきなり……もう何年もそんな呼び方しなかったくせに……」

「ふふふ。いいの。じゃあ可愛い妹のサービストークということで、さっきのことは綺麗さっぱり忘れてよね!」

私は兄の腕にからまり、足早く帰路についた。


だって……いつ私の背後に、あの少女Aがしがみついてくるか分からないじゃない……

私は恐怖を隠すべく、兄に搦めた腕の力を少しだけ強めた。


◆◇◆◇◆


あーあ、行っちゃった。

折角久しぶりに私のことが見える子に会えたのにな~。


暗い公園のベンチで座り込む私。

私はそう、みんなから少女Aと噂されている幽霊。


昼間、この公園を通る人たちが噂していた存在。


私を見たら死ぬ?ベンチに座ったら死ぬ?バカじゃない?

私はただここにいるだけよ!

何よ!こんな可愛い見た目の私がそんな呪いのような存在なわけないじゃない!

それに私は少女Aなんて、だっさい名前じゃないんだから!


私は!私は……私は?なんだっけ?

生きてる時のことなんて忘れちゃったわ。


とにかく私は見てるだけ。


本当はお話しだってしてみたいけど、みんな逃げちゃうしさ!さっきも『お話しましょ』って声かけたけど全然聞こえてないようだったし……どうしてこうなっちゃうんだろ……


毎日がひまでひまで心はからっぽで……

だから私は見続ける。


人間観察を続けてる。それしかやることがないのだから……

いつか一緒におしゃべりできるお友達が出来たらいいな。


そう思いながらも、動けないこのベンチの上で人を観察し続ける、少女Aであった。

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