新婚ホヤホヤIN無限空間
渡貫とゐち
前編
「良いところね……本当にここに住んでもいいの?」
「向こうから誘ってきたんだからいいんじゃないか? 新婚を捕まえて、不老不死でいられる世界に閉じ込め、生活させる……、退屈していた神様の戯れだろうね。こっちとしては好都合じゃないか。働かず、生きる上でお金も必要ない。自然から得られる自給自足で二人だけの空間が永遠に続くんだ……、誰にも邪魔されない――他人との付き合いさえなければ、つらいことだってないんだから」
「そうね……、時間が止まってるわけじゃないんだよね? 私たちが不老不死なだけで、外では、みんなは、歳を取っているんだよね……?」
「だと思うよ。もう一度確認してみる? じゃあ、僕が後で聞いておくよ」
「……子供も作れるのよね……?」
「きっと大丈夫だろう。あ、でも出産の時、どうしようか……医者もいないんだよね……?」
「それも神様に聞いてみましょう。新婚を選んでここに案内したんだから、子供のことも考えていなかったわけもないでしょうし……、ひとまず、今は二人だけの幸せを楽しみましょう」
「……うん。じゃあ早速――」
「昼間からだけど……する?」
「君のお誘いなら、遠慮なんてしないよ」
大きくはないが小さくもない一軒家。その周りは牧場のように広い草原が広がっているだけだ……、地平線の先までずっと……なにもない空間。
私は彼に聞いたのだ。町や海はいるか? と。しかし彼は断った……、彼女がいれば家から出ることもないだろうから、必要ないと。
なので私は彼の望み通りに、一軒家の外にはなにも作らなかった……、広々とした空間のみがそこにある。
退屈しのぎの戯れだ。
二人にとっては幸せなのだろうけど、さて、いつまで続くのか、見物だね――。
そして、二人の生活は、早くも二年が経った。
「……げっ」
「げっ、ってなんだよ。同じ家に住んでいるんだから、ばったり顔を合わせることくらいあるだろう……嫌なら出ていけばいい。離婚したっていいんだからな?」
「どうやってするのよ……この狭い世界に役所はないし……私たちが離婚したと宣言すれば、離婚したってことでいいんじゃない?」
「離婚した相手と、君は同居ができるんだね」
「仕方ないでしょ、この家を出てどこにいけばいいって言うの。牧場みたいに広ーい土地が広がっているだけ。必要なものは郵便ポストに手紙を入れて神様に依頼すれば一時間で届けてくれる……、だから町も必要ないし……――あの時、あなたが観光用に町を作って広げておけばっ、広い『だけ』の空間で過ごさなきゃいけない状況になることもなかったのにっ! 私と一緒にいられるだけで幸せなんて言うから……うぅ、不老不死なのが悔やまれる。こんな状況で死ぬこともできず、終わりもないなんて……こんなの地獄よ!」
「……こうなったのは君が文句を言うから……」
「あなたでしょ!? 生活の隅々までちゃんと把握しておくんだった……、バスタオルは毎日洗う! お箸でパスタを食べない! 使ったお皿はシンクに溜めないですぐに洗う! ……もっともっと、たくさんの細かくて嫌なことが積み重なって……あぁっ、思い出すだけでストレスよ!」
「君だって! 冷房をガンガンに効かせて厚着をするっ、大ボリュームで音楽を聴くっ、一回も外に出ないで一日を過ごすこともある! ……言い出したらきりがないくらいに君の行動にだってイライラさせられているんだよ!!」
「なによッ」
「なんだよ!」
新婚ホヤホヤで、暇さえあればイチャイチャしていた二人は、気づいたら喧嘩をするようになっていた。静かなお小言ではなく、激しい言い合いだ。片方に火が点けば、すぐに引火して一気に全体へ広がるように……、動き出したら止まらない。
「……嫌なら出ていきなさいよ、どこへなりともいけばいいわ」
「だから……っ、地平線の向こうまで牧場のような広い大地だっ、どこまでいけばいいんだよっ、餓死するわ!」
「不老不死だってことを忘れたの? 死ぬわけないじゃない……」
「それくらいの気持ちってことだよ……。外へいっても退屈だし……僕は残るぞ。嫌なら君が出ていけばいい……。がさつな君なら外でも快適に過ごせるんじゃないか?」
「誰ががさつよ……ッ、それに外でなんか過ごせるわけ――あ」
「?」
「いいわ、私が出ていく……あなたはこの家で一生、過ごせばいいわ」
彼女はある道具を手紙に書き、郵便ポストへ投函した。
その手紙は私の元へ届き、自然と開封される――彼女の欲しいものが書かれていた。
「ふぅ、これで一時間後には届いていると思うわ……」
「なにを依頼したんだい?」
「あなたに言う必要があるの? ねえ、もう私に構わないで。書類を出したわけじゃないけど、私たちは離婚しているんだから、もう赤の他人よ」
「……そうか。そうだよな……悪い」
「……これまで散々、謝らなかったのに……こんな時に謝るな、ばか」
手紙が届いてから一時間後に道具を届ける……、本当は今すぐにでも届けることができるが、あまり早く届いても私がいいように使われるだけだ。時間差、という上手くいかない部分も作るべきだろう――、ストレスは多少はあった方がいい――が。
二人の仲に亀裂が入ったことで、ストレスは過剰になっているのかもしれない。
「荷物、届いたわね……じゃあ、私は先に失礼するわ」
「……外で生活できるのか?」
「できるかどうかじゃないわ、するのよ。このポストは使わせてもらうから……、あと、その家は私とあなたの共有財産よ、あなたが使っていいけど、私が使えないなんてことはないからね――」
「分かったよ」
「……じゃあ、私はいくわ」
「ああ…………」
「…………」
「これでお互いに、せいせいするね」
「ッ、ええっ、そうね!!」
彼は出かけた彼女に見向きもせずに、扉を閉めた。
彼女の方は、少しだけ未練を残しながらも、広い草原を歩く……大きな道具を抱えて。
「初めてね……野宿。おしゃれに言えばグランピング? 自分でするからキャンプかな」
家からそう離れたところではない場所で足を止め、彼女が道具を下ろした。
「テントを張って…………あれ? どうするんだろ……ここをこうして……あっ、でもこれ、私の力じゃどうにも……」
説明書を開くが、彼女は首を傾げている。
読めば誰でも簡単に作れると思っていたが、例外はいるのか……。
それとも私が届けた商品に不具合でもあったのだろうか……だったら悪いことをしてしまった。すぐにでも新しい道具を届けに――いや。
彼女は何度も悩んで、説明書とにらめっこをしながら、自分一人でできるものだと奮起して作業をするも、失敗の連続だった。たまに振り向き、確認しながら――強く首を左右に振って邪魔な思考を振り払って作業する。繰り返していく内に、振り向く回数が多くなっていた。期待をしているのか? 彼が後ろにいることを。
「…………」
日も暮れてきた。
作業をするには厳しい時間帯だ。
手元のランプだけでは心許ないだろう。元より出発時刻が遅かったせいもあるが、彼女もここまで時間がかかるとは思っていなかったのだろう。そのため焦りもあったようだ。何度も何度も考えながら首を振り、しかし意を決して、彼女は決めたようだ。
助けを求める。
道具を置いたまま、きた道を引き返していった。
…続
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