とうしん
鳴平伝八
投
とある学校。風が吹き荒れる中、屋上の縁に立つ男が一人。
ホムラ。
眼下に広がる光景が、いつもと変わり映えのないことに辟易し、溜息をもらす。
「くだらない。こんな世界」
じりっと、内履きが砂利を噛む音を鳴らす。
「どうしたんだい!そんなんところに立って!」
ホムラはビクッと肩を震わせ、ゆっくり振り返った。
そこには、逆三角形の体にピタッとしたスポーツウエア。短パンにハイソックス。首から笛をぶら下げる男が角刈りの男が立っていた。
その姿は漫画に出てくるような体育教師そのものであった。
「え?」
ホムラは茫然とする。
「どうした!そんなところに立って!」
「誰?」
「まさか!飛び降りるんじゃないだろうな!」
大きな体をわなわなさせて、男が手を差し伸べる。
「話を聞け!誰だお前は!」
「理由はあるのか?話なら聞くぞ!」
会話が成立しないことにホムラはイライラを募らせる。
「会話できねーのか?テンプレ台詞で寒いんだよ!糞体育教師が」
アドレナリン溢れるホムラがヒートアップする。
「お前がどんな気持ちで俺に声をかけてるか知らねーけどな」
「あ、俺は体育教諭のマトバだ」
「今じゃねーんだよ!その返答は!」
会話にならない会話に、一気に沸点に到達したことを感じるホムラ。
「どいつもこいつもそうだよ!話なんか聞かない!教室では邪魔者扱い!僕は何かしたのかあいつらに!こんな毎日生きていたって楽しくもなんともない!」
沸点に達したその声のボリュームは、放課後にしてはひどく大きく、屋上の目下に見える正面玄関にたむろする生徒たちにかすかに届いたようだった。
生徒たちがホムラのことをみてひそひそと話始める。
それに気が付いたホムラが、首だけで小さく振り返り、その者たちを横目で見る。まるで、睨みつけるように。
「お前には見えないだろ?あいつらの顔が」
ホムラは悔しそうに、唇をかんだ。
ひそひそと話す生徒が先ほどより増えている。
その中には、笑顔を浮かべる者がほとんどで、中には怪訝な表情を浮かべる者、にやけながら煽っている者もいた。
「人が死ぬかもしれない。この世界にはそんな時に、笑顔を浮かべられるような奴らがたくさんいる。そんな奴らと一緒に生きていかないといけないんだ!おかしいだろ!」
ホムラが憤りをぶつける。
「何もおかしくはないぞ!」マトバが続ける。「人間なんてそんなものだ!他人のことなんて正直知ったこっちゃない!自分が良ければ大概目を瞑るし、声も出さない」
「な……」
ホムラは口をあんぐりとして、思考を巡らせる。
「な、なにを言ってるんだ!」
「人生の……心理?」
マトバが平然と告げる。
「教師が言う台詞じゃないだろ!?」
マトバは「ああ」というように口を開け、何かを発見した時のような顔をしている。
「ほんと、なんなんだお前は!」
ホムラは頭を搔きむしるような動きをして、足をバタバタさせる。
地団太を踏む子供のようだった。
「ではホムラ君、少し教師らしいことを言わせてもらおう!」
マトバが堂々と胸を張り、腰に手をやっている。
ホムラは半分呆れながら、目の前の筋肉の言葉を待った。
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