第57話 死ぬ勇気があれば、広い世界にも目を向けられる。後は、その勇気を踏み出す事に使えば、きっと違った明日が見える


「ちょっとっ、しっかりしなさいっ!」

「・・・うぅ・・・。」

 JKは冥の言葉に導かれるように闇の世界から帰還する。



「大丈夫?」

「ッ?!」

「善朗君っ!ちょっと邪魔しないでっ!」

 JKがやっと目を開けようとした時に、心配になった善朗がJKの顔を覗きこむと、JKは見事にまた闇の世界へと落ちていった。そのデジャブに流石の冥も善朗に怒鳴る。


「・・・邪魔してるつもり無いのに・・・。」

「わはははっ、主はオナゴの心が分からん様ですなっ。」

 怒鳴られた善朗はしょぼんと小さくなり、その様子を見ていた大前が大笑いしている。


(オナゴの心って何?今のやり取りにあったかしら?)

 漫才をしている善朗達を見て、冥が呆れる。






「・・・うぅっ・・・うぅ~っ・・・。」

 そうこうしていると気を失っていたJKが再び帰ってきた。


「ゆっくり目を開けなさい。ゆっくりね・・・私達は貴方の相手をする為にここに来たんじゃないからっ。」

 冥が今度こそ、話を進展させようと善朗達を遠ざけて、できるだけ笑顔でJKと向き合う。


「・・・冥・・・さん・・・私・・・怖い夢を見てたみたいで・・・。」

 JKは冥の太ももに頭を乗せたまま、ぼんやりとした意識の中で、冥に話しかける。


「・・・ん~~、今はそれでいいわ・・・貴方、名前なんだっけ?」

 冥はJKにとりあえず、落ち着いてもらうように名前を聞く。


「・・・私?・・・私はノゾミ・・・です・・・。」

 クラスメイトに名前を聞かれて、少し戸惑うノゾミだったが、冥の太ももから顔を上げて、上体を起こす。


 ノゾミはいたって平凡な女子高生。髪の毛も後ろ髪を三つ編みにして、両サイドに流し、スカートの丈も校則を守るようにちゃんとしている。所々、肉付きは良いが、細身でどうも運動が得意なような感じはしない。


「ノゾミ・・・さん?・・・他の人達は帰ったの?」

 冥はノゾミに他の仲間のギャル達の事について尋ねた。


「・・・サララさん達?・・・さっきまでスマホで連絡してたんだけど・・・つながらなくなって・・・冥さんの事、最後に様子見に来て帰るって言ってたけど・・・。」

 ノゾミはギャル達の事を素直に冥に話す。


「・・・帰ってるならいいんだけど・・・。」

 冥が余計な手間が増える事を嫌って、ギャル達が学校に居ない事を望むが・・・。



「キャアアアアアアアアアアアアアッ!」

 どこからか、女性達の叫び声が聞こえてきた。



(まぁ、こういう展開だと、そうもいかないわよね・・・。)

 冥がやれやれとした呆れ顔で首をゆっくりと左右に振って嘆く。


「・・・ノゾミさん、私の後ろをゆっくり見て・・・後ろの二人は私の仕事仲間なの・・・私達は今回、仕事でここに来てるから・・・ここはいつもの学校よりもかなり危険な場所になってるわ。冗談じゃなくて、本気で生きて帰りたいなら、これ以上私達に迷惑かけないでっ・・・いいわねっ。」

 冥はノゾミの肩をガッシリと掴んで、後ろに控えている善朗達を見て、また気を失わないようにゆっくりと善朗達をみるように促す。


 ノゾミは冥の鋭い眼光に怯えながら、言われたとおりにゆっくりと冥の後ろに隠れていた善朗達を見る。

「・・・ッ・・・。」

 ノゾミは善朗と目が合った瞬間は、意識を持っていかれそうになったが、冥が肩をしっかり掴んでいた事が安心につながったのか、意識を失わずにはすんだ。


「・・・こっ、こんばんは~・・・。」

 善朗はノゾミを怖がらせないようにぎこちない笑顔を作ってはいるが、功を奏したかは定かではない。


「別にそやつが気を失っていようがいまいが、怨霊を倒してしまえばよかろう?」

 大前は腕組みをしながら、ヒョウヒョウとした態度でノゾミを見て、いつも通り、マイペースに状況を判断して、話す。


「大前っ、あなたの言う事ももっともだけど・・・それは私達が怨霊の居場所を把握できてからのことだからっ。」

 冥が大前をにらみつつ、正論で返す。


「・・・冥さん・・・あの子達は大丈夫?」

 善朗がさっきの叫び声を上げた女性達を心配して、ソワソワしながらボスである冥のお伺いを立てる。


「正直、死んだら死んだで、事故として処理できるけど、そうなると先生達に迷惑がかかるわね・・・しょうがないか・・・。」

 冥はそう言いながら立ち上がり、スカートのホコリを払う。


(・・・やばいな・・・冥さん、本気で事故処理にしそうだった・・・。)

 冥の言動にどこか狂気的なモノを感じ、ゾッとした善朗。


「とりあえず、お守りは忍ばせておいたから、大丈夫でしょうけど・・・当たりをつけて、急ぎましょっ。」

 冥がサララ達に掴まれた瞬間に、もしものためにサララの制服のポケットにお守りを忍ばせていた事を話しながら、歩き出す。


「・・・・・・。」

 淡々としている冥達を見て、完全に取り残されて、呆然としているノゾミ。


 ボ~ッとしているノゾミを見て、冥が、

「何してるの?怨霊に見つかったら、呪い殺されるわよ?」

「ヒッ?!」

 冥の脅し文句に肝を冷やして、ノゾミは駆け足で冥の元に近寄る。4人は旧校舎のトイレから出て、冥を先頭に廊下を歩き出す。



「・・・あの・・・急がないんですか?」

 善朗が淡々と歩く冥を見ながら、さらにソワソワしながら尋ねる。



「急いでるじゃないっ。」

 冥が当然のように歩きながら、真面目に答える。


 冥と善朗が言い合いをしている中で、

(・・・なんだろう・・・本当にいつもの学校じゃないみたい・・・息苦しいし・・・寒くてしょうがない・・・。)

 善朗達を横目にノゾミが周囲をキョロキョロしている。


 周りの風景は確かにいつもの旧校舎の廊下ではあったのだが、外は完全に夜になり、星も無い暗闇が支配していた。それに、重苦しい空気が合わさり、精神的に締め付けられているような感覚にノゾミは襲われる。それが、息苦しさにつながり、異様に寒い体感温度が恐怖を駆り立てていた。



「イヤアアアアアアアアアアアアアッ!」

 冥達が2階の廊下を歩いていると、下の階から女性達の叫び声が聞こえる。



「・・・・・・もうっ!冥さん、悪ふざけが過ぎるよっ!」

「ッ?!」

 叫び声を聞いても、歩く速度を変えない冥に痺れを切らした善朗が怒鳴りながら、廊下に身体を沈めていく。善朗が床に消えていくのを見て、ノゾミが恐怖で目を丸くして、金縛りにあう。


 ノゾミが善朗の行動を見て、身体が硬直しているのに気付いた冥はノゾミに

「・・・ノゾミさん、また気絶しないでね・・・今度、気を失ったら置いていくから・・・。」

「・・・・・・。」

 目の前の現象に気を失いそうなノゾミだったが、冥のきっと実行するだろうというぎらついた決意の目に意識をしっかりと保つ事に専念することを固く心の中で誓う。ノゾミはさらに、それを冥に対して、意思表明として首を何度も縦に振ることで強く示す。


「さてさて、ワシも様子をみてくるかな・・・。」

「ッ?!」

 ノゾミがしっかりと意識を保とうと頑張っている横で、大前も床に身体を沈めていく。ノゾミは気を失った方がいいんじゃないかと一瞬思ったが、冥の服をしっかりと掴んで、自分を奮い立たせた。


「はぁ~~~っ・・・もう少しお灸をすえ様と思ったけど・・・善朗君、優しいから・・・。」

「・・・・・・。」

 ノゾミは恐ろしい光景を目の前で見ながらも、微笑んでいる冥にどこか精神が落ち着いてくる。





 一方、旧校舎の1階の廊下では、

「こないでぇーーーーっ・・・。」

「やめてよぉおおおおおおおっ!」

 サララ達が完全に腰を抜かして、失禁した状態で廊下を後退りしている。



「ゆるさないいいいいいいっ・・・おまえたちおおおおおおおおおおおっ・・・。」

 サララ達ににじり寄っているのは、この世のものとは思えない化け物だった。



 影法師が幾重にも重なっているようなうごめくその黒い黒い物体が、自分をズリズリと引きずりながらゆっくりとサララ達との距離を詰めていく。床に流れているJKの黄金水をうごめく黒い物体から黒い舌が何本も出てきて、その水分をおいしそうに舐めて味わっている。


「ひいいいいいいいいいいいいいいっ!」

 その余りの光景にサララ達は身の毛を逆立てて、声にならない悲鳴を上げる。サララ達は必死にさっきから大人たちを呼んではいたが、誰も反応せず、スマホも圏外のままつながらなかった。旧校舎の教室で談笑していたら、当然現れた化け物に追われて、必死に逃げたのだが、完全に腰が抜けてしまい、仲間共々這いずる様に教室から出て、今に到っていた。幸いなのは、化け物の移動速度がナメクジのように遅かったのが、サララ達の命をながらえさせている結果に繋がっていたことだろう。




 そんなサララ達に黒いうごめく物体がいよいよ迫ろうとした瞬間だった。

「もう、やめろっ!」

 サララ達を挟んで、黒いうごめく物体の向こう側から男の子の威勢のいい声が聞こえる。




「・・・なっ・・・なにっ?」

 サララ達は突然聞こえてきた知らない男性の声に混乱して更に怯える。


「ゆるさないいいいいいいいいいっ・・・のろってやるううううううううううっ・・・。」

 黒いうごめく物体はサララ達からゆっくりと視線を後方に移動していく。


「・・・君はこんなことするような子じゃないだろ?・・・もうやめよう・・・君がこれ以上けがれる必要はないんだっ!」

 黒いうごめく物体がサララ達に背中を向けると、また威勢のいい男性の声が聞こえてくる。


「ヒィッ?!」

 サララ達は化け物が背中を向けて安心したのも束の間、黒いうごめく物体の背中に戦慄する。


 その背中には、苦しむ人の形をした影法師達が、サララ達の方に競い合うように手を伸ばしてきていた。それぞれの影法師に出来た黒い二つの目であろう穴と、大きくゆがんだ口であろう黒い穴が無数に浮かび上がり、サララ達を引き込もうと声なき声を上げていた。



「・・・あんた達だけのせいじゃないけど・・・この子をこんな姿にした責任は少なからず、貴方達にもあるわよ・・・。」

「・・・ッ?!・・・。」

 サララ達が更に化け物から遠ざかろうと床を化け物を見ながら這って行くと、サララ達の後ろから冥の声が聞こえてきた。サララ達は恐る恐る声に導かれるように後方を見てみると、そこには鬼の形相をした冥がノゾミと一緒に立って、サララ達を見下ろしていた。





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