氷の国の城
城は外敵から身を守るように囲むように底が見えないほど巨大なクレバスの中心に鎮座している。それは難攻不落の要塞と化しており、城門に続く橋もかかっていない。
「このクレバスの底はどうなっているんだ?」
「誰もわかりません…帰ってきたものもいませんので…。」
「なんと恐ろしい…。」
「大丈夫です、ここには専属の渡し人がいますので、ご客人達が落ちるということは十中八九ありえませんので。」
十中八九という不安な言葉を聞いて私たちは戦慄の表情がこぼれた。その顔を見て、なまはげは若干微笑み、何かの紋章のついたエンブレム取り出し、掲げた。
そのエンブレムはオーロラの光をキラキラと反射させて向こうにいるであろう、渡し人に合図を送った。
しかし、一向に何の反応もなかった。
「はぁ…、いつものごとく…さぼりか…。」
なまはげは凍馬から地面に降り立ち、少し時間がかかりそうであるとあきれた様子で私たちに伝えたのち、背伸びを始めた。
「今の日本ではこんな格好が流行っているのですか?」
私たちの来ている服をまじまじと見つめてなまはげはそう質問を投げかけた。
「そういうわけではないんだが…。昔でいう着物がこれに置き換わったというべきなのか…。」
「なまはげさんはいつの時代の人かわからないですが、今スーツは男の勝負服って言う言葉もあるくらいですよ。」
「おぉ勝負ですか。やる気満々ということですね…戦闘狂の王も喜びます。」
日出の言った冗談を真剣に真に受け止めてしまい、なまはげは目を煌めかせて私たちを見ていた。
「日出…、余計なことを言うから…。どうするんだ…一戦交えようと言われたら?」
「その時は上司である東雲さんが何とかしてください!」
日出は悪びれる様子もなく、何かあったら私を盾にするという宣言をした。
「なまはげさん、東雲さんと日出さんといったことは忘れてください。これは洋服といって欧米で着られていた服です。」
「時代変わればというところですね。私の知っている唐の服もここ煌びやかではなく、こちらの服でもあまり見かけない柄でしたので…納得です。」
千暁の話に納得した様で、なまはげはよりまじまじと私たちの来ている服を見つめている。そして、私たちが着ているのは普段着として着ているデザインではない…とは言えなかった。
そんなことを話していると兜の真ん中にはプロビデンスの目を模った大きな細工がついている西洋風の兜を深々とかぶっている、人影がこちらに向かってきた。
「やっと来たか…。客人を待たせてまで何をやっていたんだ。」
「いつものごとくアレだよ、アレ。」
「そうか…。最近は不穏な動きが多いから…仕方ないが…本当にそれだけか?」
その兜をかぶっている門番と思しき人物は、なまはげの質問に対して、門番は何かをはぐらかすように私たちの方へすり寄ってきた。
門番の手には4つのメガネの様な物を私たちに手渡し、かける様に催促した。
私は朧げにクレバスになんらかの歪みを感じていたのだが、このメガネをかけた瞬間その歪みの正体がわかった。
巨大な宙に浮くツララだ…。どう言う理屈かはわからないが、目視では見えず、特殊な物を通してしか見ることができないツララがそこにはあった。
「おんや、あんたは私に近い感じだね。」
「何がですか?」
「おっと…話している時間なさそうだ…、怖い怖い。」
門番はなまはげににらまれていると察知したように、話を急に切り上げた。
「さぁ、行きましょうかくれぐれも落ちないように。」
「わかりました。日出、千暁さん、十分に注意してくれ。滑ることは無いと思うが一様…。」
私たちは巨大な浮いているつららの上を渡り、城門へ辿り着いた。
つららというよりガラスの床に近く、上は滑ることは無かったのだが、透明と言うことで底なしクレバスの全貌を真上から見てしまったという恐怖から足がすくみそうになった。
「なまはげさん、先ほどの門番に言われた事なんですが…、何かわかりますか?」
「あいつは目がすごいんです…どこでも見える。それが嵩じて趣味が覗き…。」
「は、は、は、そうですか…。」
覗き魔に、覗き魔に近いと言われたそうだ…。
今すぐに門番に詰め寄りたい気持ちに駆られたが、再度この渡った時の恐怖を味わいながらつららの上を帰る自信はないので諦めた。
王城に入るとそこは城というよりかは防衛のために作られた砦に近い雰囲気を受けた。
その砦の中に、店や住居が連なっている…、電車の高架下にある様な家とお店、そんな感じだ。
「おぉ、丸さん、お疲れ様です。その方達が王様の言っていた客人ですかい?」
「あぁ、そうだ。今から王様のところに連れて行く。」
その話しかけて来た男は私たちより一回りは小さく、身体中が毛に覆われている。しかし、毛の間から覗かせる隆起する筋肉からわかる様に、この城における兵士なのかもしれない。
体毛が多すぎて、人かどうかもわからない。
「東雲さん、あの方もしかしてイエティじゃないですか?もしくは、ビックフット…。」
「その可能性はあるな…。しかし確認のしようはないな…、あなたはビックフットですかとは聞けないだろ。」
「私、聞いて来ます!」
私と日出は慌てて千暁を止めに入った。こう言う時の行動力は千暁はピカイチだ。
少し歩くたびに、このなまはげは呼び止められる。余程この城の中でも顔が効き、人望もあるのであろう。そのせいもあり、なかなか王様がいるところまで辿り着けない。
しかし良いこともあり、この砦にいる人たちの様子は伺えた。
まずは兵士としては、ビックフットの様なタイプの獣人に近い存在と完全に人が鎧を着込んだ人型タイプのその2種類。
そして、ここで生活している物たちは多種多様であり、人、動物、一部化け物じみたやつもいる。
化け物じみたやつは地獄に送られると言う話であったが、刑期を終えたのだろうか。
「なまはげさん、あの頂点捕食者の話なんですが…。」
「その件ですか、禁忌を犯さないであの姿になることは可能なのですよ。輪廻に帰った後に残されるアストラル体を取り込むことですね。」
「輪廻に帰った後のアストラル体ですか…。」
「輪廻に帰ったのちもアストラル体は残ります。そして、そのアストラル体は時間をかけてこの世界に霧散していきます。」
私は納得した、幽世においてアストラル体の結合により一つの個体になることは特段悪ではないのだ。あくまで、輪廻に回っていないアストラル体を取り込む事が禁忌なのだ。
輪廻に帰るのはアストラル体とは別の何かであるということもこの会話から想像できた。
「輪廻に帰る前のアストラル体の摂取が禁忌ということでそれを行った者が禁忌の者なんですね…。」
「そうです…。正式には禁忌の者は知恵があるものが輪廻に帰っていないアストラル体を吸収した場合に使われる言葉です。」
「動物たちの食物連鎖には当てはまらず。あくまでその対象は人や人を超える存在に使われると。」
「その通りです。輪廻に帰る前のアストラル体は…いや何でもないです。」
なまはげはさらに何かを伝えようとしたが、口ごもった。その発言は禁忌に触れるものなのかもしれないと思い私もそれ以上禁忌の者に対しての質問をやめ、通常のアストラル体結合に関しての質問に変えた。
「輪廻に帰ったアストラル体なら人と犬のアストラル体を結合し、犬人となることも問題ないと言うことなんですね。」
「その通りです…。私と同じ王の従者にも、動物と合わさった者たちが多くいますからね。やはり動物の強靭なアストラル体は使いこなせれば戦闘において優位になりますからね。」
「それは興味深い…、ぜひとも見てみたいものです。」
日出が目を輝かせて突然話に入って来た。
一方で、千暁は店で売っているものに目を奪われていて、全然ついて来ていない。
なんともみんな王様に会うと言うのに自由なのだ…、さきがおもいやられた。
日出と千暁を呼び付けながら、今から王様に会うんだぞと大人なげなく注意したら、二人とも凹むわけでもなく、ここに興味が引くものが多すぎると反論して来た…。
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