ぼっち勇者 〜僕も仲間がほしい!!〜

ゆるだら公

勇者と魔王

その街『アルス』は、魔王の影響によって混乱と恐怖に陥っていた。

魔王城に1番近い街だったので、魔王の配下やその他もろもろのモンスターがわんさか湧いて出てくるので、人々は安心して暮らせなかった。


たくさんの冒険者や勇者が、敵を薙ぎ倒しながらなんとか街を守ってきた。

しかし、魔王の力に力及ばずと、次々に勇者を辞めていく、パーティが減るなど、戦力になる者たちが去っていくことが多発した。


もうこの街は、魔王に支配されてしまう。

__その時だった。


「この街は、僕たちが守るッ!」


1人の勇者が、立ち上がったのだ。




_____✻✻_____




__数年後 魔王城


「…っはぁ、はぁ……、やっと来ることができたぞ。…魔王ゼロ・アルマ!!」


魔王城には、ボロボロになりながらも、なんとか踏ん張って立っている勇者たちと、こちらに背を向けて立っている魔王ゼロ・アルマがいた。


「……ふっ、ようやく来たのか、勇者よ。ここまで来たのは君たちが初めてだ。さぁ、この魔王の力で存分に遊んでやるとするk……」


喋りながら勇者の方へと振り返ったゼロは、余裕な気味の悪い笑みを消し去って、完全に固まってしまった。


「…?どうかしたか魔王!」


「……いや、どうかしたかじゃなくて、お前の仲間たちはどうした。こちらに死人の情報はきてないが」


「!?…い、いるぞ…」


「?どこにいるというのだ」


すると勇者は腕を上げ、ビシッと左を指さした。


「ここにッッ!!!」


「いやいないから」


何もないところを指さした勇者に、ゼロもツッコミをせずにはいられなかった。


「じ、じゃあこれが僕の仲間…」


そう言うと勇者は、近くにあった銅像に抱きついた。


「それは俺だ!俺の銅像だっ!!」


「…え?っぅわッ!無駄にルックスのいい顔面だッ!」


「無駄に言うな!でもありがとよ!」


「…え、褒めてないんだけど……」


「………なんだコイツ……」


最後の戦いに、あまり相応しくないセリフを交わす勇者と魔王。


何かが違うことに2人は気づかず、そのまま緩い雰囲気で会話を続けた。


「…はぁ、それで、本当に仲間はどこなんだ?ヒーラーは?魔法使いは?ソードマスターその他もろもろは?」


どんどん問いただしていくゼロの圧が勇者にかかる。身体もカタカタと震えている。

そしてとうとう__


「う、うわあぁぁぁぁあ!!!」


泣き出してしまった。


「!!!??は!?え?ど、どうしたんだ勇者よっ!!立ち上がるのだ!!」


誇り高き勇者が床に蹲って泣き出すので、流石の魔王も焦ってしまった。


「落ち着け!!お前にはプライドというものが存在しないのかっ!こっちまで恥ずかしくなるからやめろ!!」


何故か共感性羞恥心を持ってしまったゼロは、勇者のそばに駆け寄って肩を貸してやる。


なんとか立ち上がった勇者は、深刻そうな顔をしていた。


「…!…お前まさか…仲間、いないのか…?」


全てを察したように、ゼロが冷や汗を流して質問する。


「……う、…い、いや!僕には大切な仲間がッ」


「あれだけ泣いておいてそれは厳しいだろ」


「………」


ゼロに悟られてしまい、勇者は嘘をつく気力も失せたのか、次は本音を叫び出した。


「あぁ、そうですよ!いませんよ仲間!!!いないけど!僕はこれまでいるいると唱えこんでここまで来たんだから!!」


「イマジナリーフレンドじゃん、怖…」


「引くなよッ!!」


クールで仲間想いの勇者の印象が台無しになったゼロ。しかし、どこか可哀想という気持ちも湧いてきた。


「……仲間は集めなかったのか?」


「そりゃ集め……うっ!」


「勇者!?」


突然また倒れ込んだ勇者に、ゼロはまた驚愕する。しかも今回は泣くんじゃなくて唸っている。どこか苦しそうだった。


「ど、どうしたのだ勇者っ!またさっきの禁断症状か!?」


「禁断症状言うな……。さっき戦った時に負傷した傷が広がってきた。…今までは大丈夫だったのに急に……」


「……」


(……つい数分前に、大声で泣き出したからじゃん…)


勇者の自業自得だと知って、ゼロは少し冷静を保っていられた。


「……と、とにかく、魔王の力とやらで治してくれない?…喋りたいから……」


「あ、あぁ。任せ…」


(……ん?ちょっと待てよ。こんなにもあっさりと傷を癒してしまってもいいのか?

この勇者、ひ弱な振りをして、実は治した瞬間に俺を倒そうっていう魂胆じゃないだろうな…。有り得なくは無い)


冷静に考えてみると、こっちは人々に恐れられている魔王で、目の前にいる男はその魔王を倒すためにやってきたのだ。どんな方法を使ってくるかわからない。


「……お前、そういう弱い振りをして俺を倒そうとしてるわけじゃないよな?」


一応確認しておいた方がいいと、ゼロは勇者から2歩離れ、攻撃態勢に入った。


下を向いて唸っていた勇者は、ピクリと身体を震わせて、ゼロに顔を合わせた。


「…………僕がそんな外道な道に足を入れるとでも?仮にも勇者だぞ」


「あぁ、はい。そうでした」


(………有り得なかったわ)


初対面にも関わらずゼロは、コイツはこんな性格だと理解したように頷き、右手に魔力を貯めた。


(……ここで倒すこともできるが、…俺、そういうのは好きじゃない)


「『ヒール』」


魔法を唱えると、みるみるうちに勇者の体の傷が癒えていき、2秒もすれば完全回復だ。


「わっ、すっかり治ってる!魔法ってすげ〜!」


「…お前、見たことなかったのか」


「!?そ、そんなことはない!見たことはあるっ」


純粋にすごいと思い、ついポロッと言葉にして出てしまった。


「…ふーん…」


しかし、ゼロは嬉しそうだ。


「ごほん…。そんなことより、早くさっきの続きを言え。そのために治してやったのだから」


照れ隠しするようにゼロは咳払いをし、会話を戻した。


「うん…。正直こっちも言いたくて仕方なかったから」


「……俺でストレス発散か…」


「いいだろ別に。……5年前、僕は勇者になって、魔王を倒そうと決意した__」

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