第26話 シュウエキカ?






「「あ……」」


 通学路、駅から降りるとちょうど蛍井も改札から出てきたところだった。手を振ると小さく笑って近づいてくる。


「おはよ」


「おはよう」


「奇遇だね、普段はもう少し早いでしょ?」


「え、ええ、そうね。今日からこの時間にしようと思って……」


「おお、じゃあ一緒に学校いくか〜」


「そうしましょう」


 8時ちょっと過ぎ。ホームルームの始まる10分前に教室に着く計算をしていたのだが、蛍井もきっとそうなのだろう。


「そう言えば、二つ目の動画も好評よ」


「そうみたいだね。変なコメントとか無かった?」


「あるにはあるのだろうけれど、熊谷先生が消してくれてるんじゃないかしら」


「やっぱり大人の人が見てくれてると安心だよな」


 二回目の動画は、確かホタルがアバターを画面に映しての実況形式だったはず。


「ちょっと俺もコメント確認しよっ」


 携帯を取り出し、Sunnyのアカウントから動画配信アプリを開く。ホタルのチャンネル以外登録していないので、すぐに二回目の動画が出てきた。


「はは、ホタルちゃん人気じゃん」


「やめて、恥ずかしいから……」


 コメントには案の定、初々しいホタルへのコメントが大量に書き込まれていた。まあ美人だし発音も丁寧だし、そりゃファンがつくだろ。


「柊木くんこそ人気よ?」


「そうなの?」


 コメントをいくつか眺めていると、確かに俺へのコメントもホタルほどではないが見かけた。


 リアクションが良いとか、行動力があるとか、普通に嬉しい。


「なんだか配信が楽しみになってきたな」


「そうね」


…………

………

……



「シュウエキカ?」


「そう収益化が出来るようになった。一言で言えばお金を稼げるようになったという事だ」


 放課後、バーチャル部室に行くと、クマちゃん先生がいつものアバターで待っていた。


 どうやらホタルのチャンネルが、収益化の条件を満たしたらしい。


「収益化の条件はチャンネル登録者数が3000人以上かつ、一定の動画再生時間なんだが、全部最初の動画でクリアしちゃったな」


 確かに、最初の20分程の動画が今では30万回再生されている。チャンネルの登録者数も5000人弱と、順調そのものだ。


「収益化の際には親御さんへの許可が必要になってくる。収益化によって得たお金は、バイトとして得たお金と同等に扱う決まりもあるからな」


「私が認めさせた!」


「さすがキラちゃん!」


 キラ先輩、勢いだけで押し切ってそう。俺には論理的に論破してる構図が思い浮かばないや。


「今日の帰りに必要な書類を渡すから、それを親御さんに見せて、休み明けにでも持って来てくれ」


「ちゃんと説明しとくんだぞ。私の時は色々とまずかった……」


「本当だよ……。もし必要だったら連絡してくれ。俺からも親御さんに説明出来るようにしておくからな」


「わかりました」


「……」


 親御さんかぁ。今家に居ないし、勝手に決めちゃって良いのかな。


 電話するにしても説明不足感は否めないし、都合良く帰って来てくれたら嬉しいけど。


「ドーン、どうかしたのか?」


「いま家に両親がいなくて……」


「そう言えばそうだったか。なに、すぐに収益化させなきゃいけないわけじゃないから、ゆっくりで大丈夫だぞ」


「それなら、了解です。ごめんな、ホタル」


「いいのよ」


 早くてゴールデンウィークに帰って来てくれるかな。だとしても一週間ちょっと収益化のできない空白の時間があるし……


「……はぁ」


…………

………

……


「おにーちゃーん?」


「ん〜?」


「夜ご飯なに〜?」


「金曜だし、ピッツァ作ろうかなって」


「ピザ!? パイナップルのピザも作る!?」


「夏樹しか食べないから少しだけ」


「やったぁ!」


 一定数いるよね、ピザの上にパイナップルとかハンバーグの上にパイナップル乗ってるの好きな人。


「生地は買ってあるし、二人で作ろう」


「うん!」


 リビングのソファに座りながらそんな話をしていると、玄関の方からドアの開く音が聞こえて来た。


「お前ら、ただいま〜」


「え、兄貴!?」





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