第22話 傘持ってきてないの?
…………
………
……
「という感じで、マナロックヴォルフというモンスターをテイムしてからログアウトしました」
「なるほどなぁ」
「【調教】は別に珍しくもないっすよね?」
「まあ、【調教】のスキル自体はな。人気なテイマーと言う役職だ」
うん良かった。今回は特にこれと言ったやらかしは無いかな。他の人はどんな生き物をテイムしてるんだろ。
「ただモンスターをテイム出来るって言うのは初耳だな」
「え?」
「ドーンくんを除くほとんどのプレイヤーがテイムしているのはクリーチャーだ」
「クリーチャー?」
「無害な動物たちのことよ」
ホタルが言うには、R2Oにはプレイヤーに敵対しているモンスターと他に、敵対してなければ友好的でもない、無害な【クリーチャー】と呼ばれる生物が存在しているらしく。
現実世界で言うところの家畜など、ワールド内に多くの生物がクリーチャーとして実装されているようだ。
確かに、あの森の中にも鹿に似た生き物が居たような気がする。あれもきっとクリーチャーなのだろうか。
「モンスターもテイム出来るとなると、テイマー界隈がまた盛り上がるかもな!」
キラ先輩は目を輝かせてそう言う。
「今度の動画は《妖精の園》とヴォルをテイムするところかな?」
「そうね」
「俺にも手伝える事あったら言ってくれ」
「ええ」
「妖精の園ってなんだ?」
「「あ」」
そう言えば説明してなかったか。
ホタルと一緒に森の住人である妖精がおり、その妖精たちが暮らしている場所だと言うことを大まかに説明する。
「おっけおっけ、よし、もう時間だし今日は解散だ!」
白目を向いたキラ先輩の号令で、各自現実世界に戻ってくる。目を開けてVRヘッドセットを外すと、クマちゃん先生、じゃなくて……熊谷先生がちょうど立ち上がったところだった。
「……あ、そういや授業で聞きたいところあるんだった」
…………
………
……
「ひえー、復習ちゃんとしないとだなぁ」
数学が苦手だと言う事もあるけど、最近はR2Oばかりで勉強に時間かけれてなかったからな。
中間テストも近いし、10分〜20分だけでもR2Oやる前に時間とろう。
「うわぁ、雨だ……」
廊下から外を見ると、灰色の雲から小粒だが雨が降っていた。夏樹に言われて傘を持ってきていたから良かったものの、普段から天気予報見る習慣もつけなければ。
「あれ、ホタル、井、さん」
下駄箱のある出入り口に着くと、蛍井が立っていた。バーチャル部室と現実での呼び方が違うせいでなんて呼べば良いのか分からなくなるわ。
「ふふ、柊木くん。呼び捨てで良いわ」
「なんかごめん。てか傘持ってないの?」
「ええ、だから少し雨宿り」
「なるほどね。俺は駅に行くけど良かったら入る?」
「えっ」
蛍井は突然だったからか、目を丸くして驚いている。友達に対して言う感覚で提案しちゃったけど、しくったか?
「ちょっと、待ってて」
「あ、うん」
スマホを取り出して文字を入力しているのか、人差し指を動かしている。使い慣れていないような一面が見れて少し面白い。
「えと、私も電車に乗るから、入れてもらえるかしら」
「帰り道一緒か! 雨強くなる前に行こー」
黒い傘を広げて蛍井に手招きをする。横並びになると、女の子特有の良い匂いがした。意識して口呼吸をするとしよう。
駅までの道、特に会話はなかった。
兄貴のお下がりで貰った大きめの傘は、高校生二人入るのがギリギリで、蛍井のために余裕をもたせると俺の肩が少し濡れる。でも別に気にならなかった。
「……柊木くん、濡れてるわよ?」
「ん、本当だ」
返事をするだけして特に何もしないでいると、蛍井さんから距離を縮めてきた。肩と肩が振れそうな距離は、二人が濡れない距離だった。
「……これで、二人とも濡れないから」
「あー、そうだね」
女性経験が皆無な俺からしたら、雨粒が傘を叩く音も耳に入らなくなるほど、心臓が大きく鳴っている。こうも近いと鼓動が聞かれそうで恥ずかしい。
めっちゃ顔が熱い、絶対赤くなってるから蛍井の顔を見れないでいる。俺ってこんな女の子に耐性なかったんだな……。
「ふぅ、着いたぁ」
「あ……雨止んでる」
「え」
駅に着いてから傘を閉じると、空から日の光が地面を照らしていた。周りを見ると傘をさしている人は一人もいない。
心臓の音のせいで全然気が付かなかった。周りから見たら完全に恥ずかしい人たちだよな、これ……
「あれ……?」
でもなんで蛍井も気が付かなかったんだ?
「全然気づかなかった……ね?」
「それな〜……」
よくわかんないけど可愛いから良し。恥ずかしそうに笑うあの感じマジ天使。俺の相方マジ天使。
じゃなくて落ち着け。
「俺一番線だけど蛍井は?」
「二番線だから逆方向ね」
「そっか……」
いや、露骨にガッカリしちゃったな……。
「柊木くんは登校する時、普段どのくらいにこの駅に着くの?」
「ん? えっと、学校に着くのが20分だから、8時ちょっと過ぎとか」
「そうなのね。今日の夜もR2Oはやるでしょう?」
「そのつもり。ちょっと今日の復習だけするから遅れるかも」
「わかったわ。またね」
蛍井はそう言って改札へと消えてしまった。普段と同じ帰り道なのに、こうも新鮮になるとは。
恐るべし【
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