二章「ぺたる、勇者としての使命に(少しだけ)目覚める。」1

「だーかーらー! 本当にいたんだって、魔法少女っていうお姉さん」

 王立魔術学園の教室にて。約三ケ月入院していたアドルが、ほぼ同時期に退院してきたイーズとウガンに力説する。

「はいはい、わかったって。そのキレイなお姉さんが魔獣を倒してくれたんだろ」

 イーズが言う。回復魔術と治癒魔術、それに若さゆえの自然治癒力ですっかり元気になったが、擬似迷宮から救出されたときは生命の危険もあったという。

 彼らが入院しているうちに新年度が来て二年生になっていた。本来なら授業日数が足りていない三人は進級できなかったはずなのだが、学園側の責任が大きい事故であったとして特例での進級が認められたのだ。

「いや、憶えてないんだよな……すぐ倒れちゃって。なあウガンはちょっとだけでも見てないか?」

 隣で大人しく聞いていたウガンに聞くが、彼も腹部に重傷を負い危険な状態であったためブルームサクラの姿は見ていない。

「うん……ペタルも先生も知らないんだよね?」

 と後ろにいたぺたるに言う。

「うんうん知らない知らない」

 なーんか怪しいんだよなあ、とぺたるの棒読みセリフに疑いの目を向けるアドル。

「ちょっと、またその話してるの」

 オリナが定位置である最前列の席から立ちあがった。

「先生がサラマンダーを倒してくれたって言ってたわ。だいたい、そんな怪しげな女が迷宮の一番奥に急に現れてアドルたちを助けて、そのまま逃げるように消えたなんて、とうてい信じられない」

 なんかひっかかる言い方だなあとぺたるは内心思うが黙っていた。

「ねえモモンちゃん?」

 オリナが猫なで声で言う。

「そ、そうなんだもん! そんな人居るわけないんだもん」

 ぺたるの遠く離れた実家から送られてきた珍しい使い魔という事になっているモモンが短い手足をバタバタさせながら力説する。その姿をデレデレした表情で見ていたオリナが

「ほらね、アドルの妄想よ妄想。夢でも見たのでしょ」

 と、切って捨てる。ちなみにこの世界の使い魔は魔術契約によって無害化した魔獣を飼育する、要はペットである。

「いーよ信じないなら。けどあれは絶対に夢なんかじゃないからな! オレはあのお姉さんに絶対また会うんだ」

 ん?

 彼の様子にオリナとイーズはピンときた。

「ふーん、なるほどね」

「な、なんだよ」

 いいのよ健全な男子の証拠だし、と妙に嬉しそうなオリナ。

「ああ、俺たちは応援してるからな。幼なじみとして」

 イーズがアドルの肩をたたき、なあとウガンにも同意を求める。

「え? う、うんよくわかんないけど応援するよ」

 そうね、とオリナも優しく微笑み

「再会できるといいわね。と言うか存在してるといいわね」

「やっぱり信じてねえじゃねーか!」

 アドルが吠えるとほぼ同時に授業開始のベルが鳴った。さて席につかなくちゃとオリナは退散する。

「一限めは……魔術薬学かあ。特に小難しいから苦手なんだよねぇ」

 ぺたるの独り言にイーズが、

「ペタルに得意な学科なんてあるの?」

 と茶化す。失礼な。まあないけど。

 教室に担当教師が入ってきた。まだ若い新任の男性で、前任のキジュリが突然退職してしまったために採用になったらしい。名前はクリーズ、濃いブラウンヘアと水色の瞳のイケメンなので女生徒からの人気は教師の中でトップらしい。

 なあなあ、とアドルが声をひそめて言う。

「魔術薬学のキジュリ先生が失踪したってウワサ知ってるか」

 そうなの? とぺたるも声をひそめる。

「僕も聞いたなそれ。ちょうどあの迷宮で事故があった時に居なくなったって。あの事と何か関係あるんじゃないかって」

 イーズの言葉に、ウガンが青い顔で言う。

「先生があんなこと、わざとやったの? オレたち死ぬかもしれなかったのに」

 いやわかんねーけどウワサだし、とアドルは私語を切り上げた。魔術薬学は難しいがきちんと学べば魔石や魔力を含んだ植物などから生成した薬で様々なことができるようになる。魔石の魔力を体内に取り込んで使う魔術とは違い、純粋に知識の学問なのである意味万人に役立つものだ。ぺたるも苦手ではあるがやる気はある。

「やる気あるのよマジで」

「ま、テストは毎回赤点だけどな」

「黙れ」

「そこ、私語は慎むように」

 クリーズ先生は若い先生らしく魔術薬の効果や実際の使われ方など魔術的に録画した動画を効果的に合間に挟んでわかりやすい授業を行なう。生徒たちも飽きずに聞いているのであっという間に終了の時間となった。

「次は……あー算術かー。一番きらいな時間だー」

 アドルが言うのにイーズとウガンも頷く。算術はぺたるの感覚から言うと小学校高学年くらいの算数なので、正直楽勝である。問題文の設定がちょっと独特だったりするくらいで、自分が小学校で学んだのと大差ない。

「ペタルは得意だよな。やっぱり歳とってるからか」

「そろそろ本気でぶつわよ?」

 まーまーとウガンになだめられながら次の授業へ。いつの間にか男子三人とぺたるは仲良しグループになっていた。そこに時々オリナも加わる。彼女はモモンを初めて見たときから溺愛しているのでそれが大きな理由かもしれないが、あの疑似迷宮での事件を乗り越えた仲間という意識があることは確かだ。

「さーて算術がんばろっかねー」



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