第46話 出立

 さよならは言わないって、何かの台詞であった気がしなくもない。あの空気感が苦手だからとか、めんどくさい感があるからなんて非情な人間だからではない。生活環境が変わるだけで、それぞれ人生が続いて行くのは変わらないんじゃないだろうかって思うと、態々さようなら言う必要性を感じないだけだ。あれ?これは非情なのか?

 そんな独特な自論で生きて19年経ちます。山科 楓です。そんなんだから友情が続かないんだよって?そもそも友情を築けた人間はいない。浅い交友は持ったけど。

 私が地面に戻ると、2人が駆け寄って来た。


「うん。初号機にしては悪くはなかった。が、一応ウォルフと2人乗りを想定してたけど、ウォルフは走った方が鍛えられるしいいかもね」

「・・・俺も乗ってみてぇ」

「それはいいよ。一人で乗る?」

「おう」


 玩具に興味津々の犬の様なウォルフに、私は命名エアーボードを託し場を譲る。

 あとは、あの魔石が何処まで保つかだ。色がなくなったら使えないらしいから、乗る前に補給が必要か確認しつつ耐久日数をこれから実地で試すしかないだろう。やすりがけもしたい。


「ウォルフー、スピード出さないようにね」

「分かってる!」


 さすがと言うか、運動神経がいい。私は現代人感覚で難なく乗れたけど、ウォルフも浮いた時まごついてたけど、説明する前に感覚を掴んで乗り回していた。


「あのスピードで移動できれば問題ないでしょ」

「だが、魔物が襲って来た時、俺の傍にいないと直ぐに防げないかもしれない」

「襲ってくる前に気付けるし、だとしても私単体なら結界で防げるから」

「だが・・・」


 協力しておいて未だ渋っているグランに、私は呆れて注意する。


「グラン。グランには討伐に集中してもらわないと、うちの最大戦力なんだから。私も魔法で攻撃はするけど、私がやると人目があった時悪目立ちするし」

「・・・・・・分かった」


 まだこっちの“普通の”人たちの魔法を使ったところをよく見たことはないが、私みたいな子供がばんばん一撃で魔物を倒す威力の魔法を連発していたら、目撃者がいた時異常に映ることは間違いない。

 こうして実験の成功と必需品の買い込みを終え満足し、何か忘れてる気がしないでもないが思い出せなかったから、思い出したら明日買い足せばいいかなと、私はそのまま出立の朝を迎えた。


「あのおっさんらに、あいさつしなくて良かったのか?」

「?・・・!」


 常識人ウォルフのお伺いに、私はようやく何か忘れてるような気がしてた“何か”を思い出した。がしかし、朝一に出ると聞いている冒険者一行はもういないはずだ。


「大丈夫。ディオルグさんたちはディオルグさんたちで達者でやるさ」


 然も覚えていたよ、忘れてはいない風を装い、私は窓の外を見てそうつぶやく。青い空が、気持ちいいな。まさに冒険日和だ。


「お前、忘れてたんだろ」


 ジト目で見つめるウォルフに、私は笑顔で否定した。


「そんな訳ないじゃん。アレだけお世話になったんだし?忘れてたとか、そんな訳ないから。ほら、アレだよ・・・向こうも色々と忙しそうじゃん?討伐前ってさ、ほら、色々とあるはずじゃん?だからまぁ・・・これでいいんだよ。人と人の出会いと別れなんて」


 私はそう誤魔化して、部屋を出る。まぁ、東京のお引越しもそんな感じだよ。引っ越し蕎麦も廃れたし、いつの間にかお隣が変わるなんて、良くある話だよ。昨日まで空いていた店が、いつの間にか違う店に変わるみたいな?良くある話だし、うん。


「ホントか?」


 珍しくしつこいので、私はウォルフを引っ張って階段陰に寄ると防音結界を素早く張って囁く。


「グランとフィーネさんの間に何かがあったらしい。オトナの話だし、これ以上は言うな」

「え?何が?」

「知らん。直では聞いてないが、顔がそう言ってた。何も聞いてやるなよ」


 適当なこと言って、私はこの話を終わらせることにする。


「カエデ、何の話をしていたんだ?結界まで張って」


 結界を解いて直ぐ、仲間外れにされたグランが詰め寄ってくるが、私は何でもない気にすんなとはぐらかす。こっちは素直だ。私は知らなかった。この夜、ウォルフを問い詰めたグランが、翌朝面倒なやつになることを。


「こんにちは~」

「やぁ、いらっしゃい。待ってたよ」


 いよいよ待ちに待ったステンレスフライパンの買取にヴァンガルドさんの店に向かえば、当人が出迎えてくれ、そのまま奥で検品となった。


「どうだろう?」

「完璧です。おぉ、ちゃんとコンパクト収納可能だ。薬缶もいい感じ」


 私は色々ガチャガチャして、側面収納式をお願いしたフライパンの取っ手を弄ったり、4~5人前の鍋の重さを確かめたりした。これなら身体強化無しでも持てるし、振れる。中身入ったら話は別だろうけど、鉄より断然軽い。すでに試作品で熱伝導もみて火の通りが問題ないことも確認したし、アウトドア用品としても文句ない出来となっていた。


「ありがとうございます。これで大丈夫です。はい、追加報酬です」


 私が取り出した大銀貨5枚を、ヴァンガルドさんは案の定戻してきた。


「いや。これを登録させてくれるっていうんだから、儂が貰いすぎになる。ありがとう、カエデちゃん。とてもいい仕事ができた」

「そうは言われても、約束は約束です。そういう契約を持って仕事受けてもらったんですし」

「大丈夫だから。もしまたこの先何か困ったら、是非声を掛けてくれ。儂にできることなら、何でも協力しよう」

「・・・分かりました。まぁ、それでいいならこれ以上言っても野暮ですね。ありがとうございました」


 私はお金を引っ込め、礼を言う。確かに、発明権考えればだし、これからステンレス製品で利益を稼げるだろうから、それの報酬と考えて納得しておく。


「なら、お世話になりました」

「もう行くのかい?」

「はい。あ、そうだ。一つお願いが」

「何だい?」

「ディオルグさんたちに、お世話になりましたって伝えといてもらえます?」

「あぁ、そのくらいは。挨拶できなかったのかい?」

「まぁ。向こうも討伐準備で大変そうでしたから」

「そうだね。分かったよ。確かに預かった」


 視線を逸らせて嘯く私に、ヴァンガルドさんが微笑んで頷いてくれた。


「また近くに来たら寄って頂戴ね」

「ラッカスによる時は、儂か兄貴の名前を出せば、知り合いは大体助けてくれるはずだから」

「分かりました。これ、大事に使います」


 ソフィアナさんにも見送られ、私たちはその足で門へ向かう。


「さて、では行きますか。ルアーク ダンジョン“サナアーク”に」

「あぁ」

「おう」


 1つ目の街ルアークを出た私たちは、中級ダンジョンを目指し歩き出した。私は未だ歩いてないけど。

 移動がてら、仕舞いこんでいた上着を出す。


「お前の恰好はなんか、普通だな」

「まぁ。装飾品の類一切ないし。あんま派手なのはちょっと」

「待てよ、これ作ったのお前だろ」

「似合っている。カエデは何を着ても似合うのだな」

「それは口の上手い男が、適当なこと言ってるときの台詞だよ。おしゃれした女の子にこれ言ったら絶対ダメなやつ」

「そうなのか?」

「着飾ってる側としちゃ、着る服なんてどうでもいいように思われるよ。見る目ないか、体目当ての男確定じゃん」

「違うからな、カエデ!俺はそんなつもりは断じて」

「あぁ×2、はい×2。分かってるから騒がんでよろしい。にしても・・・」


 改めてグランの恰好を見る。


「うん。似合ってるけど・・・うん」

「俺はこっちの方が好きだ」

「あぁ、うん。ウォルフはね。ロングってイメージないかな」


 ウォルフも何か感じるものがあるのか、断然今の系統のがいいと主張するけど、ウォルフにはまだ早いな。何だろう・・・・・・多分、服単体で見ればゲームコスっぽさが勝つけど、グランが着ると海外のハイブランドモデルの着てそうな感が強い。中身って大事なんだなって改めて知った。

 ウォルフはまだ子供らしさあるから、安定の渋谷に屯ってる不良少年って感じだ。双剣とケモ耳尻尾があるからコスプレにしか見えないけど。

 そうこう言い合ううちに、目的のダンジョンが見えてきた。

 外套をしっかり纏い、一応服が見えないようにして、あとはグランに任せる。


「入るのか?」

「あぁ」

「身分証は?」

「ない」

「その子供たちも?」

「そうだ」

「ダンジョンは原則自由入場だが、全てにおいて自己責任だ。戦闘職でない者の場合、1層目だけに留まれ。欲をかけば命を落とす。ここより先、進む者がケガをしようと死のうとも、責任はお前達自身にあるものとなる。心せよ」

「分かった」


 認識阻害を強めにかけて、不信感を抱かせないようにはしてるけど、正常であれば普通にアウトだろう。


「よし。入場料 1人500ユーグとこの台帳に名を書いたら行っていいぞ」


 門番とグランのやり取りが終わり、ついに中級ダンジョンに潜る。

 大きな洞穴に立派な門扉が取り付けられたような入り口に立ち、私は地面に降り立ち背伸びをする。


「んじゃ、行きますか」


 目指すは、最下層。闘神の眷属神の名が刻まれているという建造物。


■ カエデ ヤマシナ (6) Lv.8 女 ヒューマン

 HP 90/90  MP ∞  SPEED 7

 ジョブ:チャイルド

魔法属性:全属性 『上級魔法 Lv.100』『身体強化魔法 Lv.3』『治癒魔法(ヒール)Lv.100』『回復魔法(キュア) Lv.100』『完全治癒(リディカルキュア) Lv.100』『付与魔法 Lv.15』『特級火魔法 Lv.1』『古代闇魔法 Lv.I』

 スキル:『探索(サーチ) Lv34』『審眼(ジャッジアイ)Lv.27』『隠密 Lv.8』『逃走 Lv.4』『狩人 Lv.10』『スルー Lv.999』『万能保管庫(マルチアーカイブ)Lv.2』『ユニーク:絶対防御』『双剣術 Lv.20』

 状態:『若返り』『闘神の加護』

 称号:『異世界人』『怠け者』『食道楽』『料理人』『破壊魔候補』『自己至上主義者』『画伯(笑)』『発明者』『デザイナー』

 アイテム:奴隷[竜人:グラディオス]

      所持金 258,110,400ユール


■グラディオス (179) Lv.326 男 竜人

 HP 1,690/1,690  MP 2,690/2,690  SPEED 299

 ジョブ:戦闘奴隷〔契約主:カエデ・ヤマナシ〕

 魔法属性:闇・風・火属性 『古代闇魔法 Lv.X』 『上級風魔法 Lv.100』『特級火魔法 Lv.45』

 スキル:『隠密 Lv.89』『剣術 Lv.97』『体術 Lv.100』『暗殺術 Lv.60』『従僕スキル Lv.82』

 称号:『紫黒の死神』『始祖竜の末裔』


■ウォルフ:(9)Lv.13 男 獣人(狼属)

HP 125/125 MP 39/39 SPEED 194

ジョブ:双剣遣い

魔法属性: 火・無属性『身体強化魔法Lv7』

スキル:『追跡術 Lv5』『噛千切 Lv5』『掻爬 Lv7』『双剣術 Lv.2』

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