第28話 ミラクル


 遠足のおやつは、何円まででしたか?そんなもんもう記憶にない、19歳 山科 楓。小学校1年生に戻った今、その頃の記憶はやっぱりないけど、何かこれを見てあの頃の純な気持ちが懐かしくなりました。


「ロックウルフの亜種の革 1枚 大金貨1枚、ブラックサーペントの牙4本 小金貨 4枚と大銀貨8枚、サーベルタイガーの牙 10本 金貨1枚、B+ランク魔石 3個 小金貨1枚と大銀貨8枚 全額で116,600,000ユーグでどうだ?」


 金ぴかなコインは、スーパーの駄菓子コーナーにあったあれを思い出す。甘く美味しい、金貨チョコ。置かれた金貨のタワーを見て思う。皮剥いたらチョコ出てこねぇかな、と。

因みにこの世界のお金は、大・中・小で金・銀貨、そして大銅貨・銅貨があり、全大陸共通らしい。1銅貨=10ユーグ、10枚で1大銅貨=100ユーグとなる。大金貨の上もあるけど、個人で使うようなことは余程のことがないとないらしい。大金貨100枚で1白金貨(10B)と大金貨1,000枚で1オリオン金貨(100B)。まぁ、見ることはないだろう。

 価値も分からないし、それが高いのか安いのかも分からないけど、さっき店先で見た剣の類は、7M~15Mユーグだったから、高いのか?


「おいおい、じぃさん随分奮発してねぇか?」

「多分、商業ギルドに売りゃ、まだ値はつくぜ。亜種の革、あんだけの質ならな。どうする?うちが出せんのは、これが限界だ」

「じゃ、それで。大金貨は、小金貨でください。なければ金貨で」

「・・・俺が言うのもなんだが、いいのか?ありゃ、Aランクオーバーだろ。国宝もんだぞ」

「あれ私のおじいちゃんから旅の足しにしろって貰ったものなんで、いつまでも持ってても仕方ないです。寧ろ、そんなもの売れるんですか?」

「要らねぇ心配してんなよ。表に置いてあんのは、一般客向けだ。ここはルアーク、A級冒険者は常に10人近く滞在してる。金遣い良い、金蔓わんさかよ」

「ヴァンガードさん、それを僕たちの前で言うんですか」

「お嬢ちゃん、心配すんな。このじぃさんは、この街一番の鍛冶師だからな」

「ふん。おだてても、おめぇらの修理代はまけねぇぞ。何しやがったんだ、儂の作品に」


 奥へ来るついでに作業場へ運んで来た、修理に預かっていたディオルグさんとアドルフさんの大剣を見て、ヴァンガードさんが盛大に顔を顰めた。


「ならいいですけど。その代わり、調理器具買える店紹介して欲しいんですけど」

「何が欲しいんだ?」

「フライパンと鍋が欲しいんです。ことによっては、特注で」

「なら、儂の弟を紹介してやろう」

「それから、ここ防具も売ってますよね?」

「勿論だ」

「見せてもらえます?」

「よし。なら、なるべく細かい貨幣の方がいいってことだよな?用意しとくが、支払いはおめぇらの買い物が済んでからでいいな。」

「うぃ」


 ヴァンガードさんの弟さんは、別の店で生活用品的な金属加工を専門としているらしい。

 これで、軍資金は十分稼げた。はず。

 表に戻ると、ウォルフがまだ納得しない顔で剣を持っていた。


「ウォルフ、決まった?」

「ん~」

「何かが違うらしくてな」


 アドルフさんが、苦笑して説明してくれた。ここまでずっと役立たずだったグランを見て、今こそ役立てとアドバイスしてやるように視線で頼む。


「構えてみろ」

「おう」


 ヴァンガードさんとディオルグさんもその姿を観察し、やがてちょっと振ってみろと外へ連れ出された。

 ガラス越しのそれを後目に、私は店内を見渡した。今持っているナイフもいいけど、もう少し調理しやすいものが欲しい。

 が、私の背丈では棚の脚しか見えない。背伸びをしていると、背後からアドルフさんが手を貸してくれた。


「ありがとうございます」

「いや」

「カエデ」


 こっちに来ようとするグランを手で制する。


「グランはさっきから役に立ってないんだから、ウォルフを見てあげて」

「役に……分かった」


 きっぱり言葉にした私の台詞に衝撃を受けたのか、力なく答えて後ろ髪をひかれつつウォルフに向き直っていた。


「何が見たい?」

「ナイフが。料理しやすそうなのないかなと」

「料理をするのか?」

「まぁ。自分で食べる分くらいですけどね」


 何種類かの飾られたナイフを見る。そういえば、こちらの世界にもガラスっぽいものはあるんだなと今更ながら気付く。半透明の板がはめ込まれた飾り棚に、剣やなんかがずらりと並んでいる。

 良さ気なナイフは数あるが、どれもでかい。子供用なんて売ってるはずはないか。

 そう思った私の視界の端に入ったそれが、私は何故か気になった。

 店の隅、それも一番手に取りづらく、一番目に入りにくそうな壁の上の方に飾られた武器。それを見て、次いで表で何本目かの剣を振らされているウォルフを見る。

 MMOのキャラのパラメーター的に、ウォルフは剣向きではないよな。


「どうした?」

「いえ」


 何でもないと言おうとしたところで、ウォルフたちが戻ってきた。


「じゃぁ、これでえぇんじゃな?」

「ん…確かに、一番振りやすいやつだったし」


 話しの様子から、ヴァンガードさんが手に持っている細身で軽そうな剣に決まったらしい。

 私はアドルフさんにお礼を言って下ろしてもらうと、ヴァンガードさんに話しかけた。


「ヴァンガードさん、アレ見せてもらえます?」

「あ?」


 私が指さした先にあるそれを見て、ヴァンガードさんもグランたちも眉を寄せる。


「お嬢ちゃんが使おうってか」

「まさか。ウォルフ、ちょっと振ってみてよ」

「え、俺?」

「うん」

「そうか、あれなら!・・・だが・・・・・・まぁいい。ちょっと待ってな」


 ヴァンガードさんは、はしごを使って店の隅で埃をかぶっていたそれを手に取り、戻ってくる。


「ほらよ。構えてみな」

「2本?何で2本なんだ?」

「知らねぇ。これはそういうもんなんだよ」


 持ってきたのは、剣より短く、ナイフより長い。2本の双剣だった。この店にはそれ以外ないところを見ると、この世界ではマイナーなのかもしれない。


「こうか?」

「何で双剣なのに1本しか持たないの。2本ともだよ」

「え?」

「お嬢ちゃん、これの使い方知ってんのか?」


 不思議なことを言う売り主に、私は首を傾げる。


「此処にあるってことは、ヴァンガードさんが作ったやつじゃないんですか?」

「いや。儂が打ったんだがよ、こりゃどっかのダンジョンから出た剣の模造でな。剣にしちゃ短ぇし、ナイフにしちゃ長ぇだろ?ナイフ遣いも使えねぇって言われちまって、売れなかったんだよ」

「へぇ。それは双剣って言って、2本で一対の剣ですよ。ウォルフはSPEEDが人よりあるし、俊敏性高いから、双剣向きだと思うんだよね」


 後半ウォルフに説明しながら、もう1本も持つように促す。


「構え方が2パターンあるんだけど、基本はどっちにするか。ウォルフなら・・・逆手持ちの方が似合うかな」

「どうやんの?」


 首を傾げるウォルフに私が手を出そうとすると、グランに止められた。


「カエデは危ないから刃物に近づくな」

「ナイフも持ってるし、持たないと教えらんないじゃん」

「俺が教える」

「なら教えてあげなよ」


 が、グランも知らないのか順手で持って立った。


「それでどう戦うんだ?」


 想像がつかないらしいウォルフに、グランも答えられないのか顔を顰める。

 まぁ、知らないなら教えられんわな。私も教えられないし。

 そう思いつつ、鈍くさい動きで良ければ見せてなんか伝わるイメージあるかもと、ヴァンガードさんに私の上腕の長さ位の棒はないか尋ねる。


「ほらよ」

「ありがとうございます」


 持ってきてくれたそれを受け取り、私は表に出た。


「イメージだからね。あくまでこんな感じって、ふわっとした動きだよ?ふわっと」

「分かった」


 私は何度目かになる念押しを入れる。私は私の運動神経の限界値と言うものを知っている。可もなく、けれど不可でもない。運動会で言えば、ビリではないけど、トップでもない。メンバーに恵まれた時で2位。悪い時で5位くらいのレベルだ。みんなの視線がうるさいけど、ここは無我の境地になろう、と目を閉じて、RPGの双剣キャラの動きを思い起こす。こう、こう、こうして、モンスター狩るときは、下からこうトルネードアタック的な。

 気付けば体が勝手に動いていた。足が地面を蹴った感覚で正気に戻ったときには、視界に見える空が2転3転してその間にも体を捻って上半身や腕が勝手に動く。どうなってんのか自分でも分からず、交差させた腕を前にし、衝撃を殺すためか膝を曲げた格好で地面に着地した私に、誰も何も言わない。私も何も言えない。


「なんでぇ、今の」

「前衛の近接攻撃特化か」

「凄いですね。今の動き、初めて見ました」

「ナイフ遣いの奴らの動きとも違ぇな」

「カエデは、多才だな」

「かっこいぃ!俺、俺それにする。双剣遣い」


 盛り上がる周囲をよそに、私の頭の中は「?」でいっぱいだ。私天才!とか思うはずない。今のは私の生まれ持ってるスペックではできるはずのない動きだ。それができた。Lvが上がったからか?身体強化パッシブのおかげか?それにしては今の動きに違和感がなさ過ぎた。思えば、初日初遭遇MMN−−所謂、魔物--との命を賭けた壮絶な鬼ごっこも、この数週間の動体視力の目覚ましい成長−−当初は目で追う事さえ出来なかったグランの動きが見えるまでに−−も、おかしいと言われれば、そもそもの状況がおかしいから何とも言えないが、引っかかるものはあった。

 たった一つ、思い当たることがあるとすれば、私が今の今まで無視してきたアレしかない。


■ カエデ ヤマシナ (6) Lv.8 女 ヒューマン

 HP 90/90 MP ∞  SPEED 7

 ジョブ:チャイルド

魔法属性:全属性 『上級魔法 Lv.100』『身体強化魔法 Lv.3』『治癒魔法(ヒール)Lv.100』『回復魔法(キュア) Lv.100』『完全治癒(リディカルキュア) Lv.100』『付与魔法 Lv.10』『特級火魔法 Lv.1』『古代闇魔法 Lv.I』

 スキル:『探索(サーチ) Lv34』『審眼(ジャッジアイ)Lv.27』『隠密 Lv.3』『逃走 Lv.4』『狩人 Lv.10』『スルー Lv.999』『万能保管庫(マルチアーカイブ)Lv.1』『ユニーク:絶対防御』『双剣術 Lv.10』

 状態:『若返り』『闘神の加護』

 称号:『異世界人』『怠け者』『食道楽』『料理人』『破壊魔候補』『自己至上主義者』

 アイテム:奴隷[竜人:グラディオス]

      所持金 56,697,550ユール


■グラディオス (179) Lv.326 男 竜人

 HP 1,690/1,690  MP 2,690/2,690  SPEED 299

 ジョブ:戦闘奴隷〔契約主:カエデ・ヤマナシ〕

 魔法属性:闇・風・火属性 『古代闇魔法 Lv.X』 『上級風魔法 Lv.100』『特級火魔法 Lv.45』

 スキル:『隠密 Lv.89』『剣術 Lv.97』『体術 Lv.100』『暗殺術 Lv.60』『従僕スキル Lv.82』

 称号:『紫黒の死神』『始祖竜の末裔』


■ウォルフ:(9)Lv.13 男 獣人(狼属)

HP 125/125 MP 39/39 SPEED 194

ジョブ:孤児

魔法属性: 火・無属性『身体強化魔法Lv7』

スキル:『追跡術 Lv5』『噛千切 Lv5』『掻爬 Lv7』

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