第12話 雲隠れ
私はこれから、苦肉の策に出る。その前に、しておくべきことがある。
「集まれ~」
ちびっ子たちを集め、輪になって固まる。
「いい?君たちはこれから、あのお兄さんたちについて行けば街まで戻れる。そんで、各自家に戻れるか大人に相談しなさい」
「は?あいつら、信用できるか分かんねぇじゃねぇか」
「大丈夫。彼らはA級冒険者の皆さんだ。つまり、金で解決すると私が保証しよう」
「おい、勝手言ってんなよ」
今ツンデレ皇子には用はない。後ろからの野次をシカトし、親指で右後ろのキャプテンを指した。
「攻めるべきは、あの面倒見の好さそうな兄ちゃんだ。なぁに問題ない。A級って言うくらいだから、多分恐らく、予想するに強いはずだ」
「間違いなく強いよ、カエデちゃん。A級冒険者は」
リーナちゃんもこう言ってるし、異世界カルチャーショック ABCで弱いなんてこともなさそうだ。
「が、今彼らは依頼を受けている」
そこで私は一旦後ろを振り返り、一応尋ねた。
「目的は誰ですか?」
「ブレナ商会の会頭から依頼を受けてる。マーシャ・ブレナは誰だい?」
ラルクさんの答えに、マーシャちゃんが嬉しそうに顔を上げた。ちょっと、今のやり取りが犯罪チックに聞こえたのは私だけだろうか。
「目的はマーシャちゃんだ。そして、その他の子供はきっと元から眼中にない。が、彼らとて人の子。幼気な子供を見捨てようなんて、そんな血も涙もない人非人ではないだろう。だから、みんな手出して」
出された小さな手に、私は山賊たちから徴収して審眼で鑑定した質の高いっぽい宝石を数個づつ握らせる。
「それをお金に換えて、冒険者を雇うか、マーシャちゃんの親御さんに泣きつけば、各自家まで送ってもらえる・・・はず」
そんな私の皮算用に、背後の結界の外から呆れたような声が掛かる。
「おい、さっきから好き放題言ってるが、聞こえてるぞ」
「聞こえるように話してるんだよ。山賊に攫われた寄る辺ない子供を、捨ててかないように」
「他のガキ連れていっても、足手まといなだけだ。お遊びで此処に来たわけじゃない以上、別に良心はいたまんな」
「ギルド通さずに依頼を受けるのも、ルール違反になっちゃうしね」
ルークさん・・・いや、ルークでいい。ルークの血も涙もない言葉に、ルック君が涙目になってしまったではないか。
「おい、おっさん。大人気なく子供泣かせてそんな面白いんか?満足か?満足なのか?それで」
私はわざわざルック君の手を引いてルークの前まで来ると、やっちまいなと顎でしゃくってルック君を促す。
「~~~~~~っうえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん」
「ッ!?チッ。分かった、分かったから、泣くな。連れてってやるから」
結界に阻まれ慌てるしかできない大人を鼻で笑い、私はルック君の頭を撫でて抱き締めあやす。マジ泣きの子供に、大人が勝てるわけはないのだ。
「くっくっくっくっ。ルークの負けだな。珍しく、お前が勝てんとはな」
「るっせぇよ。つーか、ガキ。お前も連行だからな。この状況含め、きっちり説明してもらう」
茶化すアンディさんにキレてるが、大人気ないルークが悪いのであって、私は悪くない。
「だが、断る!あ、一応これ報酬。通常価格知らんが、街までだったら釣りくらい来るでしょ」
グラン曰く、大金貨1枚で数年は遊んで暮らせると言っていたので、多分いけると。徴収品の中の金貨から1枚を結界の手前に置いた。
「ちょっと待って。君はどうするつもり?と言うか、この状況で逃すと思う?」
ラルクさんの疑問は最もだ。が、私に説明義務はない。そして、人のいる街に連れてかれたら色々と面倒になるのは請け合いだ。と言うことで・・・。
「グラン」
私は目線で呼んで抱き上げさせると、こそっと耳打ちして皆に向き直る。
「説明はこの子たちに任せた。じゃ、皆達者で暮らせよ!さらばだ!!」
言うだけ言って結界を解くと同時に、隠密(ステルス)で認識を錯乱させ、グランに全速離脱をさせた。
時速何kmで進んだかしらんが、人の腕に抱えられながらジェットコースター乗ってる風圧を受けてあの場を離れること十数分。私は相変わらずの山の中で、漸く地面と再会できた。
「ジェットコースターは、数分乗車だから楽しんであって、十数分乗車は止めた方がいい」
私は遊園地の真理をこの身で悟った。
「大丈夫か?」
「胃がひっくり返るところだった」
Gがかかって気持ち悪い感じになってる内臓と筋肉と脳みそに、人体の限界を主張されている。もうしないから。もうマジしないから、鎮まりたまえ。地面と仲良くなりながらも、私はウサギちゃん召還再びを阻止せんと口を抑えて苦しむこと十数分。ようやく平衡感覚が戻ってきた私は、念のためサーチを開いた。
正直、今目を使いたくないからだけど、多分大丈夫だろうとは思っていても追いつかれてはいないかと確認した画面の端の方に、近づいて来る青を見て眉を顰めた。
今までと違うのは、青点に固有名詞が現れた。
「・・・」
「カエデ?水を飲むか?」
いきなり呻きも悶えもしなくなった私に、グランが心配そうに声をかけてきた。
「グラン。もうすぐしたらウォルフが来る」
「あの狼属の少年か?」
「どうやって追って来てるのか知らないけど、あの中じゃグランの次にSPEEDあったから、あと20分程度で来るみたい。待ってあげよう」
「いいのか?連れて行きたくなかったんだろ?」
さっきまでの方針検討会議のウォルフ少年への厳しい突き放しを知るグランの確認に、私も仕方がないと肩をすくめる。
「でも、付いて来ちゃってるし。ここで見捨てる訳にもいかないでしょ。この辺りは魔物もそう多くなさそうだから、暫く本人が落ち着けそうな街見つけるまでは面倒見るしかなさそ」
獣人である彼に選べる道は、どの道命がけの選択肢しかないだろうから。乗り掛かった舟というか、この訳の分からない世界での初ナビは彼だったのも何かの縁なのだろうと割り切ることにした。
それから魔法で水を出して胃を落ち着け小休止しながら、それでもまだ暇だったので命名マップを開いて辺り一帯の植物捜索と採集に当たった。そこで、野生していたほうれん草とルッコラ、タマネギ、ベージ(コショウ) をゲット。そこで一つ気付いた。
■ベージ(コショウ)
食用可。粉末にすると強い刺激があり、くしゃみが止まらなくなる。
■野草(ほうれん草)
食用可。
と言うような見え方をしたから、ほうれん草とかはこちらの世界で食べ物として扱わないものなのだろうとあたりを付けた。のわりに、結構調理に使える野菜や調味料の類が自生してる。
「それは、薬草か何か?」
「いや。普通に食材。ほうれん草って野菜。こっちの人は食べないんだね」
「カエデの作るものは、まるで神の美食のような料理ばかりだが、食材じゃないものが多いな。ところでそれは、毒のある球根じゃないのか」
「これはタマネギ。球根状の植物は毒持ちが多いけど、ちゃんと食べれるよ」
ウィンドに食用の植物にポイントが付いて教えてくれるから便利だなぁと思いつつ、畑みたく色々な種類の食材ゲットしていった。量はないけど、普通に2~3人分の食材としては十分だ。なにより、全部無料ってのがいいね。そうこうしているうちに、青の点が近づいて来る。
「来た」
「カエデ、一つ質問してもいいか?」
「何?」
「サーチ範囲が、異常なようだが。魔力は幾つだ?」
「ひ・み・つ」
私は探るグランをはぐらかし、速度を弱めたウォルフの方向を見る。
「ウォルフ、分かってるから隠れてないで出ておいで」
私が呼ぶと、暫くしておずおずと姿を現したウォルフは、怒られるのを分かっている犬みたくなっていた。
「・・・・・・・・・・」
「別に怒ってないよ。人間の街に行くリスクは、君もそこそこに高いんだし。ただし、こっち来ても一緒にいれるだけの力が君にないのは事実な以上、君は自立できる力をつけて、一人立ちしないといけないのは覚えときな」
弾かれたように顔を上げた少年の泣きそうな顔に、私は笑って見せた。
「うちの家訓は、『成人したら自立する』だから。それ忘れないように。あ、因みにうちの成人は20歳なんだけど、こっちの成人っていつ?」
「種族にもよるが、一番遅いヒューマンで16歳だ」
グランの答えに、私はこの世界に生まれなくて助かったと思った。まぁ、謎にトリップ?させられてるけど。
「そっか。さて、ならもう昼だ。昼飯にするぞ」
「カエデ、もう食事をとるのか?」
「え?うん。もう昼だし」
「まだ昼だろ。普通、食事は1食か2食だが」
「えええええ!!?私には無理。食事は3食。朝・昼・晩が基本でしょうよ」
「いや、多いだろ。俺たちは、普通に1食だよ。朝だけ」
ウォルフ少年のつっこみが戻ってきたが、今はそれより常識の齟齬が激しい。
拝啓、お空の彼方のお父さんお母さん。私、お家帰りたい。異世界4日目、この世界は私には相変わらず合わないと、何度目かに思います。
■ カエデ ヤマシナ (6) Lv.3 女 ヒューマン
HP 34/34 MP ∞ SPEED 6
ジョブ:チャイルド
魔法属性:全属性 『初級魔法 Lv.100』『身体強化魔法 Lv.3』『治癒魔法(ヒール)Lv.100』『回復魔法(キュア) Lv.100』『完全治癒(リディカルキュア) Lv.100』
スキル:『探索(サーチ) Lv4』『審眼(ジャッジアイ)Lv.2』『隠密 Lv.2』『逃走 Lv.4』『狩人 Lv.5』『スルー Lv.999』『亜空間倉庫(アイテムボックス)最大』『ユニーク:絶対防御』
状態:『若返り』『闘神の加護』
称号:『異世界人』『怠け者』『食道楽』『料理人』『破壊魔候補』『自己至上主義者』
アイテム:奴隷[竜人:グラディオス]、所持金 56,780,450ユール、塩130(+100)、毛布、回復薬4、ダガーナイフ(鉄)、フライパン(鉄)、バジリコ 22(-1)、アロナの葉 138、マカラ 13、ナティーア 46、ワイナリーの樹液、ライスライム 15、風の魔石(下)、ホーンラビットの骨、コカトリス 1、小麦 980、オリーブオイル、ガーリー 12、芋 21、アメジスト 5、ダイヤ 12、ネックレス 6、指輪 8、new ベージ[コショウ] 32、new ルッコラ 30、new ほうれん草 11、new タマネギ 5、
■グラディオス (179) Lv.326 男 竜人
HP 789/1,690 MP 455/2,690 SPEED 299
ジョブ:戦闘奴隷〔契約主:カエデ・ヤマナシ〕
魔法属性:闇・風・火属性 『古代闇魔法 Lv.X』 『上級風魔法 Lv.100』『特級火魔法 Lv.45』
スキル:『隠密 Lv.89』『剣術 Lv.97』『体術 Lv.100』『暗殺術 Lv.60』『従僕スキル Lv.80』
称号:『紫黒の死神』『始祖竜の末裔』
■ウォルフ:(9)Lv.11 男 獣人(狼属)
HP 103/115 MP 15/15 SPEED 180
ジョブ:孤児
魔法属性: 火・無属性『身体強化魔法Lv5』
スキル:new『追跡術 Lv5』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます