浮雲
私は職を転々としていた。
一人で黙々と作業が出来る職場は良かった。
社外の人間や他部署との関わりも少なく、気が楽だった。
それに同じ部署内でも人間関係は全体的に希薄で、距離が近い付き合いをしている人はあまり多くなく、居心地が良かった。
だが全く人と顔を合わせないことはなく、普段からしている挨拶ついでの世間話がきっかけで、同僚との折り合いが悪くなってしまった。
別に大して気にするようなことでもなかったのだが、気付けば会社を辞めていた。
そんなことを繰り返していくうちに、次第に正社員の仕事が見つからなくなり、アルバイトをすることが増えていた。
実家で暮らしているため、特に生活に不自由を感じることはなかった。
だがある日、両親から高いお金を出して大学へ行かせたのにと怒られ、
私は嫌気がさして家から飛び出してしまった。
行く当てもなく、ただ彷徨っていた。
こんな時は友人や恋人がいれば、ほとぼりが冷めるまで泊めてもらうこともできるのだろう。
だが私はそういった人間を作るための努力をしてこなかった。
いや。正確にいえば、友人を作ろうとしていたとは思う。
しかし、些細なことで相手が嫌になり、関係を投げ出すということをひたすら繰り返していたような気がする。
それは社会人となっても変わらなかった。だから、こうして彷徨っているのだろう。
思えば、学生の頃なら自分と気が合いそうな人とだけ付き合うというのは、ある程度可能だったように思う。
クラスメート全員と仲良くする必要は無いし、嫌いな教師がいても、行事や授業など接点は限られている。
だが社会人、特に会社勤めの場合はそれは難しくなる。
自分とは趣味も性格も世代も、まるで違うような人達とも関わりながら仕事をしなければならない。
人を選ぶということはまずできないといっていい。
本来、学生のうちに学ぶべきはずだった人間関係の構築の仕方を、
一切ものに出来なかった私が社会人として通用する訳がなかったのだろう。
普通は、意識せずとも自然にできることなのだろうか。
ちょっと喧嘩しても次の日には仲直り、これは凄いことだ。感心してしまうほどに。
幼い子供でも出来ることを、この歳になっても出来ない私は、かつての私にはどう映るのだろうか。
今日の夜は、やけに冷え込む。
携帯電話を持たずに家を出た私は、今自分がどこにいるかも分からない。
幸い、身分証は手元にあり、手持ちも少しはあるので、近場にあったネットカフェで朝まで過ごすことにしよう。
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