第10話 4日目 - 1

――四日目。


「おはようございます。今日も頑張って殺しまくって下さいね。なかなか駆逐をしない皆さんに耳よりな情報です。なんと、今日はお得なポイント二倍デーで~す」


 蓮華は放送の声に耳を疑う。

 ポイントが二倍ということは、昨日までの駆逐よりも、今日一日の駆逐数次第ではポイントが逆転するからだ。

 あっという間に他の参加者が強くなる可能性が高い。


「おぉ、早速ですか‼」


 街に響き渡る魎呼の声がワンオクターブ高くなると、激しい音ともに、頭上に花火が上がるが、明るいため綺麗だとは感じない。


「おめでとうございます。参加者の一人が駆逐を十人されました。その参加者には特別ボーナスを差し上げます。次は二十人を目指して頑張ってくださいね」


 放送の内容に蓮華は顔を歪めた。


(先を越された……十人駆逐した参加者は、かなり強くなるはず)


 まだ見ぬライバルに対抗心を燃やす。

 だが、見知らぬ相手よりも自分が強くなることが第一だ。

 蓮華は、すぐに街へと飛び出して、わざと目立つように行動をする。

 移動を始めて、すぐに自分の体が軽いことに蓮華は気付く。

 スキル【身体強化(敏捷性)】の効果なのだが、思っていたよりも自分に合ったスキルだと満足する。

 街が破壊される音が四方から聞こえてきた。

 先程の放送で触発されたのだろうが、突然過ぎると蓮華は少し困惑していた。

 その矛先は蓮華にも向けられる。

 見晴らしの良い交差点までくると、既に三つ巴の戦闘が始まっていた。

 豹と蛇の戦いを、上空から大鷲が狙っていた。

 戦闘を観察していた蓮華だったが、上空に居た大鷲に見つかる。

 急降下してきた大鷲に気付いた蓮華は、大鷲の攻撃を簡単に回避した。

 これには蓮華自身も驚くが、大鷲のスピードが思ったよりも早くないと感じたためだった。


(これが【動体視力】の効果‼)


 スポーツ選手の動体視力よりも、格段に高い能力ではないかと蓮華は思いながら、大鷲への追撃に備える。

 大鷲も避けられると思っていなかったのか、上空を回転しながら攻撃のチャンスを伺っていた。

 その時、大鷲の体から突然、血が流れて翼が切れて飛行不可能となり蓮華の方へと落ちてきた。

 チャンスとばかりに蓮華は【バーニングウィップ炎鞭】で大鷲の体を切り刻んだ。

 目の前に画面が現れて、『駆逐数:八(ポイント:七)』が表示される。

 大鷲は誰も殺していないことが分かると、蓮華は残念な表情を浮かべる。


「おいおい、人の獲物を横取りとは、節操のない女だな」


 路地から出てきた二十代後半の男性が、苛つきながら蓮華を怒鳴りつけた。

 蓮華は男性の顔に見覚えがあった。

 髪型は坊主になっていたが、左目をまたぐ上下一文字の傷跡に、顔の至る所についているピアス。

 そして、肩から腕に隙間なく彫られたタトゥー。

 電車の中で包丁を振り回して、五人を殺害した薬物中毒者の殺人鬼”霧島 阿央人きりしま あおと”だった。


「人の物を盗ったら駄目だと、学校で習わなかったか?」


 蓮華を恫喝する霧島の目は虚ろだった。

 この世界ディストピアでも薬物中毒なのかは不明だが、明らかに正常には見えなかった。

 なにより、薬物中毒者の殺人鬼に学校での教えを問われるとは思ってもいなかった。


「女~、お前は御仕置だ‼」


 霧島は右手を上下左右に振ると、蓮華の見ていた景色の一部が歪む。

 咄嗟に避けようとするが、左腕に綺麗な切り傷が出来ていた。


(鎌鼬のような能力ね……)


 落下してきた大鷲と、今の攻撃で蓮華は霧島の攻撃を断定する。


「おいおい、誰が避けていいって言ったよ」


 自分の攻撃を避けられた霧島は更に苛立ち、蓮華を睨みつける。


(あいつの攻撃を避けるだけのスピードがない……であれば)


 蓮華は霧島と距離を取りつつ、ポイント:五を使い『スキル強化』を使う。

 一瞬、蓮華は体が温かくなる感じがしたが、霧島には気付かれていないことを願いながら、霧島の顔を見続けていた。


「くだらねぇな‼」


 霧島が腕を振りぬくと今度は、空気の刃が見える。

 冷静に避ける蓮華だったが、気付くと背後に蛇が迫っていた。

 既に豹との対決は終えて、標的を蓮華に変えていたのだ。

 蓮華を締め付けようと周囲に体を回す蛇だったが、運悪く霧島の攻撃を受けてしまう。


(あの形って、キングコブラ?)


 独特な形状の体は猛毒で知られるキングコブラだと警戒する。

 キングコブラは傷つけられた怒りから、標的を霧島に変更した。

 しかし、蓮華は自分から目を離したキングコブラに対して、【バーニングウィップ炎鞭】を叩きつける。

 大鷲を切断した【バーニングウィップ炎鞭】だったが、キングコブラは体を傷つけるだけだった。

 霧島の死角になるようにキングコブラへの攻撃を続ける。

 蓮華の様子に気付いた霧島は大鷲に続いて、目の前の獲物まで横取りされないようにと、キングコブラへの攻撃を強める。

 すると、キングコブラの牙から毒が噴射される。

 咄嗟によける蓮華。


(キングコブラって、毒を飛ばすの‼)


 もしかしたらキングコブラだと持っていた蛇が別の種類だったかも知れないと警戒する。

 コブラはコブラでも、有名なキングコブラでなく、ドクフキコブラだということを蓮華も霧島も知らない。

 どちらにしろ、毒には注意する必要があると、気付くと霧島と共闘のような形でドクフキコブラと戦闘をしていた。

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