バンドで青春って義務ですか?
シラツキ
第1話
帰りのホームルームのチャイムが鳴り、生徒は教室から廊下に出ていく。
部活動がある者は教室から飛び出して部室に向かう。
一緒に帰る人がいる者は友達を探しに他の教室に向かう。
そのためチャイム直後の廊下は人が多く、狭い空間に人が集まってしまう。
一方の俺は部活もなくただ一人で帰る。
早く学校を出たいのは山々なのだが、人ごみが収まるまで一度待つ。
廊下に溜まる生徒がいなくなったのを見てから、俺は廊下に出る。
六月だというのにこれだけ暑ければ、人混みはどうしても避けたいのだが――
「あのっ、
聞きなれない女性の声に呼び止められ、思わず振り返る。
「あー、B組の……
「そうです! 今お時間大丈夫ですか……?」
「今……ですか」
百瀬
彼女が俺の名を呼んだ。
今は隣のクラスで、去年も別に同じクラスではなかった。
話したことは勿論ない。
俺が彼女を知っているのは、彼女が生徒会に立候補していたからである。
書記か、なんかだったな
そんな彼女が俺に何の用だろうか。
「今ここで済む話なら大丈夫ですよ」
「……そうですか。あの、その……急な話なんですけど……」
彼女は急にモジモジし始めた。
元々低い身長からさらに縮こまってしまっている。
ただ、意志を固めたような表情を見せ、俺の目を見る。
そして彼女は言い放った。
「私と、バンド組んでくれませんか!?」
バンド…………。
バンドって、どのバンド……?
物を束ねる紐状のやつ……?
怪我した時に患部に貼るやつ……?
いや、それはバンドじゃなくてバンドエイド――
「なんで軽音部入ってないのかなってずっと思ってたんだ!
外部でやってるって話も聞かないしさ、
彼女は急に饒舌になった。
さっきまでとは打って変わってグイグイ来る。
勢いに押されて思わず後退りしてしまう。
「……なんで、俺がバンドやってたの知ってんの?」
「え……あ〜っと、その……この前偶然YouTubeで見かけて……」
そう言って百瀬さんはスマホの画面を見せてきた。
『道永
そこには紛れもなく、中学生の頃の俺のドラム演奏動画がある。
当時の界隈で脚光を浴びた、男子中学生四人バンド。
『NoneType』のメンバー、道永康太郎はそこに写っていた。
「ほら、この動画なんて100万再生もされてる。オリジナルの曲だよねこれ」
百瀬さんは、語り出した。
もう三年も前になる動画を、語り出した。
だが不思議と、懐かしさは込み上げて来ない。
「これもこれも全部、道永くんの作詞作曲だし。私も作曲には手を出し始めたんだけど、全然上手くいかなくてさ。もし良かったら教えてもらいたいだなんて言っちゃったりして――」
「嫌だ」
「……え?」
反射的に振り向くのと同じように、反射的に言葉が出た。
意識すらせず、ありのままの本心が。
「俺はもう、バンドはやらない」
踵を返し、脳は空っぽのまま、下駄箱へと向かった。
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