第02章　極道一家・滝川家

　時は戦前にまで遡る────

　自国を大日本帝國と謳（うた）っていた島国において、全国各地で野放図（のほうず）な愚連隊（ぐれんたい）を率いる腕っ節の強い屈強な男集団は、明治に入る頃にはすでに現在の極道の原型となっていた。

　第二次世界大戦、終戦２ヶ月前──昭和２０年（1945年）６月吉日。

　それら愚連隊の首領（しゅりょう）となる人物、総勢300名余が北は北海道から南は沖縄に至るまで、勅命（ちょくめい）によって東京にある大本営（だいほんえい）──陸海軍総司令部・市ヶ谷１号館──に呼び寄せられ、一堂に会する運びとなったのである。

『我ら大日本帝國は大東亜共栄圏（だいとうあきょうえいけん）の盟主國（めいしゅこく）たる地位を存続せねばならぬ。その為には、此度（こたび）の戰（いくさ_）の結果がどうあろうとも、いかなる支配も受け入れることは敵（かな）わぬ。貴卿（きけい）らに協力を仰ぎたい』

　今上（きんじょう）天皇が口上を述べると、一堂は静まり返った。

　すでに敗戦色濃厚となっていた戦況にも関わらず大規模な集会を行うことは危険極まりなかったが、その集会を開いたのは偏（ひとえ）に祖国の行く末を案じたとある人物の一計だった。

　その当時の大政党において舌鋒（ぜっぽう）鋭い論陣（ろんじん）を張ることで頭角を現し、当時の日本人らしからぬ６尺（約180cm）を超える体躯（たいく）を誇る若き国会議員──のちに日本復興において最大の立役者であり、戦後２代目の総理大臣となる──織田茂信（しげのぶ）、その人である。

　彼は戦後の敗戦国日本を正確に予知しており、敗戦後の祖国を憂う有能な──明治後期頃より日本でも存在が明らかになりつつあった──先天性アルファ（α）であり、日本政財界のトップエリートの１人だった。

　彼ら閣僚および今上天皇が、300名余の首領らに、次のように続けたのだ。

『我ら、および我らの子々孫々がこの地で永く安住を得られるために、貴卿らの協力は必要不可欠である。祖国のために手を取り合ってほしい』

　戦後処理の収束を待たず、GHQから任命された直後の総理大臣が、国粋主義の学徒らによって暗殺されたのちに織田は総理を任されることとなった。

　復興の礎（いしずえ）を築くため、日本国内のみならず、世界中を奔走した織田は内閣を５期に渡って組閣し、生涯独身を貫いたのである。

　その結果────

　戦後日本では、αの階級（クラス）を頂点にしたピラミッド型の人口統制が敷（し）かれ、表舞台では政治が、裏では極道が支配し、闇の部分が白日（はくじつ）の元に晒（さら）されぬよう、巧みに作られた『二重化社会構造』が出来上がる。

　裏社会の日本は東西南北の地区で４つに割譲（かつじょう）されることとなった。

　北は北海道から東北地方までを【任侠（にんきょう）玄武会（げんぶかい）】、東は北陸から関東甲信地方までを【任侠青龍（せいりゅう）会】、西は近畿・中国・四国・九州地方までを【任侠白虎（びゃっこ）会】、南を鹿児島県薩南（さつなん）諸島を含む奄美・沖縄・台湾・上海支部までを【任侠朱雀（すざく）会】が取り仕切ることとなる。