002 > 運命ってナンだっけ?(その2)


 ぜえはぁ言いながら全力で走り、マケたかな、と思って後ろを振り向く。


 すでに違う通りに出ていたおれたちは、酸欠になりながら走ってたせいもあって、少し速度が落ちたのを見計らうように、灯りを求める昆虫よろしく無言のまま、誘われるように暗い夜道を照らすコンビニにたどり着いた。


 ハァハァと息を整えながら、全国チェーンのコンビニの窓ガラスに手をつくおれ。


 そいつも息が上がっているけど、おれなんかより体力ありそう。

 まぁ、受験勉強ばっかで最近体動かしてないからな。


 すると


「……お前、名前は?」

「は、あ?!」


 おい! 他になんか言うことあるだろ! って思いながら顔を上げると、おれよりかなり高い位置から男前イケメンに見下ろされた。


(げげッ! こいつ思ってたよりデケェ!)


 おれだってそんなに小さくない。一応175cmはある。だけど、そいつはおそらくおれより10cm近くデカそうに見えた。そしたら、急におれの首筋に顔を近づけてきて


「お、おい?!」


 す~っと音がするくらい呼吸しやがった。


(ってか、こいつ! いま! おれのにおい、かいだよな?! なんで?!)


「……お前だ……」

「は?」


 コンビニの照明に照らされた男前の目元が少し赤くなって、じっとおれの顔を見ている。


(な、なんだよ。今度はおれにケンカ売るつもりか?!)


「オレ、滝川辰樹たきがわ たつきって言う。お前は?」

「……あのなぁ、名前を名乗るのはいいけどさぁ、その前におれに何か言うことあるんじゃねぇの?」


 常に陽気、を信条にしてるおれが、珍しくフキゲンさをそのままにして、そいつに向き合うと


「??」


 本当にわかってない顔をした。


(こいつ、大丈夫か?)


「あ・の・な?! 一応、おれ、お前のこと、助けた、わけ! なんか、言う、こと、は?」

「あ、ああ、すまん」

「……」


 かみ合っとらん……しょうがねえな、って思って顔を見上げながら


「そういうときは、ありがとうって言うんだって、母ちゃんに習わなかったのか?」


 デカイなりして小首を傾げた仕草はちょっとかわいいな、って思ってると。


「……母親は、いない。お前、両親ともいるのか?」


 会話が全然かみ合わない。どっと疲れたおれは、もういいや、とばかりに


「じゃあ、な。おれ、門限破るとコロされっから」

「あ、おい!」


 そう言ってそいつが今度はおれの前腕を捕まえた。


(やべえ、手もデカイぞ、こいつ……)


 振り向いたら、なんだか不安そうな表情をしてて、おれのほうが驚いた。


「なんだよ……」

「なまえ……」


(しつけぇ……初対面で名乗るようなアレだったか?)


 そいつの気迫から、絶対に離さないって意気込みを感じたおれは、しょうがねえな、と思って。


北野直次郎きたの なおじろうっつの。お前は、たきがわたつき?」

「きたの、なおじろう……」


 おれの顔をシゲシゲと眺めながら、そいつはおれの名前を繰り返した。


「手、はなせって」


 言って、つかまれた手を振り払う。


「……また、会えるか?」

「はぁ?!」


 いやいや、君。ボクはもうあなたにアイタクないです。


 何がどうなってあんなニイちゃんに狙われてんだか知らねえけど! そんな人間と関わるのは絶対にごめんですぅぅ!


「お前……俺の【運命のつがい】だ」

「ひゃい?」


 今なんつった?


「……こんなところで会うなんて……」


(運命? ってナンだっけ???)


 混乱した脳みそでおれはそいつの顔を見返す。


 そして、ポンと手をたたいて、思い当たる単語を口に出して言った。


「いやいやいやいや、何を言ってるんですか、あぁた。ボカァ、由緒正しきベータ(β)ですよ?」

「……でも……そうだ……」


 おいお前。たつきとかいうお前だ、おめえ。

 なんでおれをじっと見てんだよ。

 ほっぺた赤いぞ、コラ。


 さっきまでギラギラした目でヤクザのニイちゃんとケンカしてたくせに。

 頬染めて乙女みたいなツラすんな。


 その男前がキラッキラした目でさらに言う。


「びっくり……した……まじか……」

「は、いぃ???」


 お前が運命とか言うのはあれか、あれだな、アルファ(α)とオメガ(Ω)のあれな、あれ。


 お前みたいなイケメンに見染められるオメガはしゃーわせかもしんねえけどな?


「本当だったんだ……あの話……」


 なぜか1人納得したような顔をして、そいつ、滝川辰樹が言うもんだから、ちょっと待て~~~~!ってなったおれは、テイネイに、ちゃんと付け加えといてあげた。


「確かにお前より小さいかもしんねぇけど、お・れ・は、ベータなの。どーゆーあんだすたん?」


 たしかに父ちゃんと母ちゃんはアルファとオメガなんだけどさ。


 すると、赤かった顔をさらに赤くしたそいつは


「…………オメガだから……」

「へぁあぁぁぁああいぃぃ!?!?」


 ちょぉ~~~っと待てぇい!

 

 おれより背も手もデカくて! ゴツくて! 男前で! イケメンのくせに! ちみが?! まさかの?!


「ちょっと……突然ヒートが来て……」

「……は……?」


 おれが呆然としていると、そいつが熱っぽい目でおれを見るもんだから、ブワァって何か込み上げてきた。


(おい! おれぇぇぁあああ~~~! いくらオメガでも! こ~~んな! おれよりデッカくて男前でアレな男に~~~?!?!)


 って思ったんだけど────




 それが。


 おれと辰樹の出会い。


 今思うと、ホントびっくりだよな。


【運命】ってそんなもん? かもね?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る