第55話 最悪の事態

 俺の忠告を無視して魔石を回収する領兵達は、押し寄せる魔物達の足音に驚く。


「魔物だ!スタンピードは終ってなかった。急いで城塞に戻って門を閉じるぞ!」

「ギャー!」

「助けてぇー!」


 城塞の外に出ていた領兵達が必死に逃げ戻るが、魔物達の移動速度はそれ以上だ。俺は押し寄せる魔物を倒していくが、全ての魔物を止めることはできなかった。


「くそっ、戻れと言ったのに……、セレーナ!ハリエット達と合流して5人で対処するんだ。自分達の命を最優先にして欲しい」

「かしこまりました」


 全ての人を救うのは無理だ。そこで俺は、救う命の優先順位を決めることにした。最も優先するのは輝煌星きこうせいのみんなで、その次は未来ある子供達にしたのだった。スタンピードにより壊滅的な被害を受けても、子供達さえ生き残れば、時間はかかっても街は復興するはずだからだ。


 覚悟を決めた俺は、危険だと思う魔物から斬り伏せながら街へ戻っていく。戻りながら門の方へ目を向けてみると、門は空いたままで魔物達の波が侵入していた。身勝手な行動により守るべき人達を危険にさらした領兵達が、魔物によって蹂躙されている。


「おい、助けてくれ!」

「……」


 俺に助けを求めるが、それは俺の守る対象ではない。身勝手な行動で最悪の事態を招いたのだから自業自得だ。領兵達を無視してハリエット達の元へと急いだ。以前の俺なら決して見捨てることはしなかったと思う。今の俺は、魔物が執拗に人を攻撃する理由を俺は知っている。


 全ての元凶は人なんだ!人を滅ぼせ!


 そんな言葉が俺の思考を支配していく……


『ウォード!』

『うっ……、パミュル!』

『その想いはウォードのものじゃない。魔人化によって魔王セレンフティアの想いに引き寄せられてるわ。自分の意思を強く持つのよ!』

『ありがとう。もう大丈夫!』


 パミュルの呼びかけで、魔王セレンスティアの思考支配から逃れると、守るべき人達の元へと急いだ。


「ハリエット!」

「ウォード!」


 互いの視界に最愛の人を捉えると、名を呼び合いながら駆け寄って抱き合う。


「みんな、僕から離れないで。この状況では全ての人を守ることはできない。それなら愛する人だけは守り抜く!ここから戦いやすい場所へ移動するよ」

「「OK!」」


 壁を背にして戦える場所を探す。俺とメルローズが前に出て、後ろにはハリエット、サーシャ、アナスタシアが控える形で戦うのがベストだと思ったからだ。


 そして、小さな子供達が避難している一角を見つけたので、その場所を背にして戦うことにした。スタンピードを止めるのではなく、スタンピードから生き抜く為の戦いを……。


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