第49話 見放されたウォード

§ハリエット視点§

 緑門から溢れてきた魔物がやって来る。


 ウォードの指示に従って限界まで速度をあげて走る。そうすれば追いつかれずに門にたどり着けると信じていたから。


『ダダダッ!』


 なんとか追いつかれることなく門にたどり着いたと思った瞬間、私達の耳に聞こえるはずのない声が聞こえた。


「門を閉めろ!緑門でスタンピードが発生した。目の前まで魔物が迫っているが、僕が足止めするから早く門を閉めるんだ!」

「「!?」」


 一緒に走っていると思っていたのに……、間に合わないと判断したウォードは、私達が無事にたどり着かせる為に足を止めて、押し寄せる魔物達と対峙していたのだった。私は門を閉じようとする門兵に声をかける。


「待って!私達のリーダーが、魔物の足止めしているの!もう少し閉じるのを待って。お願い!」

「馬鹿を言うな!早く閉じないと住民全員に危険が及ぶんだ。市民全員の命と1人の命なんて比べるまでもないだろう!」

「そうだ!英雄気取りの馬鹿を待つ必要なんてない!早く閉めないと俺達がヤバいんだよ!」

「そんな……」


『ギ、ギギギィ……、バタンッ!』


 私の願いも虚しく城塞の門は閉じられた。こうなればウォードのとった行動が無駄にならないように覚悟を決める。


 私とサーシャはウォードを援護する為に、城塞の上へ駆け上がる前に指示を出す。アナスタシアにはラミュルの元へ行くように、メルローズには他の門を閉じるように伝えるように指示をする。


「アナ、ウォードの指示通りにラミュルの元へ急いで!」

「は、はい……」

「メル、全ての門を閉じるように伝えに行って。それが終わったら戻ってきて、少しでもウォードの援護をして欲しいの」

「わ、判りました……」


 2人は涙をこらえながら駆け出すのを見送ってから、ウォードを援護する為に城塞へと駆け上がった。


§ウォード視点§

 俺とセリーナは押し寄せる魔物達を絆の太刀で斬り伏せていく。第一波は普通のゴブリンばかりなので、今の俺の相手にはならない雑魚だ。全てを斬り伏せると、城塞からハリエットの声が聞こえてきた。


「ウォード、もう少し城塞に近づいて!私とサーシャで援護をするわ」


 2人が手を振りながら呼んでいるので、可能な限り城塞へ近づこうとすると、ヤンカー市の領兵が俺に向けて矢を射ってきた。


「馬鹿野郎!近づかずに離れた場所で戦え!勝手に残ったんだろう? 我々に迷惑をかけるな!それ以上近づけは容赦なく魔物と一緒に射抜くぞ」

「くっ、俺はスタンピードから住民を守ろうとしているのに……」


 俺は守ろうとしているヤンカー市から見放されたようだ。領兵から援護を受けることなく、スタンピードで押し寄せる魔物と戦うことになったのだった……


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る