第39話 ウォードの後悔

 黒い箱の中身を確認したところで休憩は終了。


 俺達はモンスタールームを出て、2階層のマッピングを再開すると、二手に分かれた分岐点まで戻った。あの時と違って右側から戦闘をしてる気配はなかったので、右側の通路を進んでいくと血まみれの男が倒れていた。


 俺は慌てて駆け寄って男の生存を確認する。


「大丈夫ですか?」

「うっ……、俺は」


 声をかけると男が反応した。かなりの重症で、手持ちのポーションでは治癒することは無理だと思った。気休め程度と判ってはいるけど、回復ポーションを1本飲ませて話を聞くことにした。


「まずはこれを飲んでください」

「うっ、すまん」


 なんとかポーションを1本飲みきったけど、焼け石に水だったようで、大きな傷が癒えることはなかった。それでも男は必死に周りを見渡して仲間を探す仕草を見せた。


「僕がきた時には、あなたが1人倒れているだけでした。他に仲間は何人か居たのですか?」

「俺は夫婦でハンターをしていて妻が……、ゴブリンと戦闘中に後からパーティーがやって来て、いきなり背後から斬りつけられたんだ。抵抗をしたんだが、数に押しきられた」


 俺の頭には、俺達のことを見て『素人かよ』と言ったパーティーを思い浮かべた。その特徴を男に伝える。


「そのパーティーの中に凄く大きな男じゃありませんでしたか?」

「そいつだ。そいつが斬りつけられた。妻がここに居ないということは攫われたのか。ガハッ、頼める立場ではないと判っている……、だが、妻をマヤを助けてくれないか?」


 俺は冷静を装っているけど、内心は怒りに身を震わせていた。俺にも守りたい人が居るので、守れなかった時の辛さは想像を絶するはず。


「必ず助けます。あなたの名前を聞かせてください。奥さんを助けた時に無事だと伝えます」

「俺はカイ。マヤに守れなくて済まないと伝えてくれ……」


 カイはマヤに『済まない』と言う言葉を残して目を閉じた。首に手を当てて脈を確認をしたけど、カイは息を引き取っていた。


『ドクンッ』


 俺はカイの亡骸をゆっくりと寝かせると、両手を合わせてから改めてマヤを救うと約束をする。


(カイさん、必ずマヤさんを助けるからね)


 俺が立ちあがって振り向くと、ハリエット達はなにも言わずに頷いた。みんなの表情を見れば同じ考えだと判ったので、一言だけ伝える。


「マヤさんを攫ったパーティーを追うよ」

「「うん」」


 あの時、右に曲がって居れば2人を救えたかも知れないと後悔をした。時間を戻すことはできないと判っているので、マヤを攫った外道なパーティーを見つけて、2人への罪滅ぼしをする。

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