第69話 セナ 別れの時

 あれからラミュルの家に毎日通って、お互いに残された時間を共有しあった。


 セナは徐々に食事が取れなくなってきて、眠る時間が長くなりかなり痩せ細ってきた。

 

 俺は顔を出すとセナに声をかけるけど、『うん』と応えて目を開けた時だけ話すようにして、後は手を握って寝顔を見つめるだけ、という日が殆どになった。


 昼頃にアナスタシアが学校から戻ると、そこからは2人でセナを見守りながら、学校の勉強で判らないところを教えていた。


「ウォードさん、毎日のように痩せ細っていくお母さんを見るのは辛くないの?私、本当は凄く辛いよ……」


 アナスタシアは痩せ細ったセナを見ながら涙を浮かべる。俺は優しく背中を擦るとそのまま胸に顔を当てたので、手を回して軽く抱きしめる。


「うん、辛いよね。辛いんだけど残された時間が限られてるなら、僕は傍に寄り添って1秒でもセナと過ごしたいんだよ。アナちゃんも愛おしい人ができれば判る時がくるよ」

「生まれ変わってもお母さんを愛してるの?」

「うん、生涯で初めて愛した人だからね。転生した時もね会わないまでも、その姿だけは見たいと思ってたんだよ」

「それも愛しい人が判るようになるの?」

「うん、その時がくれば判るよ」


 俺の言葉を聞いた後、アナスタシアは顔をあげて笑顔を見せながら答えた。


「そこまで思ってもらえるお母さんは、幸せなのかも知れないね」

「そうよ、私はとっても幸せよ。最期の時を愛する人に看取られるんだから」

 

 俺とアナスタシアが話してる間に、セナは目を覚ましたようで話に加わってきた。痩せ細ってて昔の面影なんてないはずなのに、その時に見たセナは昔の美しいセナに見えたのだった。


「アナ、ウォードと2人にしてくれる?」

「えっ、あ、うん。お姉ちゃんに目が覚めたことを伝えてくるね」


 セナに2人にして欲しいと言われて、アナスタシアはラミュルの部屋へと移っていくと、ベッドから起きようとするので俺は支えた。


「ありがとう。あなたにはこんな姿は見られたくなかった……。でも、逢うとそんなことはどうでもよくなった。私はあれからもずっとウォードを愛していたわ」

「僕もセナのことを愛しているよ」


 2人が『愛してる』と伝えあった後は、自然と顔を近づけて口を合わせあった。


「ウォード……」


 キスを終えると、セナは小さな声で俺の名前を口にすると、優しい笑顔のままその生涯を閉じたのだった……


「セナ……、僕も近いうちに逝くからね……」


 俺はセナを抱きしめたまま静かに泣いたのだった……

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