第59話 二人の秘密
俺は無意識のうちにセナのもとへ駆け寄った。
「セナ!」
セナは突然名前を呼ばれて『ビクッ』と驚いたけど、駆け寄る俺の姿を見ると信じられない表情になる。十数年前のスタンピードで死んでしまった人間が現れれば当然の反応だ。そして、震えながら俺に声をかけてきた。
「あっ、えっ、ウォ……ウォードなの?」
「あぁ、ウォードだよ」
俺は答えると同時に弱々しいセナを優しく抱きしめた。記憶に残ってる柔らかい身体ではなく、ろくに食事も取れてないのか痩せ細っていた。
「あぁ、ウォード、あなたはあの時に……」
「うん、1人にしてごめん」
そう言った後に、感情を抑えきれずに俺はセナにキスをした。
「あっ、ダメよ。私はこんな汚らしいのに……」
「変わらず綺麗だよ。色々と話さないといけない事があるんだ」
「えぇ、色々と話を聞かせて欲しいわ」
「うん、宿を取ってるから、そこで話をしよう」
俺がセナと話をして宿へ向かおうとすると、女性の声に呼び止められる。
「その女に何の用なの?感染はしないけど病に侵されてるから、無闇に街へ連れ出さないでね」
俺が声の主の方を見ると、そこには不機嫌な顔をしたラミュルが立っていた。その口から病に侵されてると聞いて、治療を施さないことを問いただす。
「病に侵されてるというのなら、白魔術師として治療するのが君の役目じゃないのか?」
「白魔術師は全てを治せる訳じゃないのよ」
「それなら尚のこと、お母さんに寄り添ってあげないとダメじゃないのかな?」
ラミュルは、俺が2人の関係を知ってることに驚くと、さらに表情が険しくなってセナに対して声を荒げる。
「あんた、何をベラベラと他人に喋ってるの?この女は嘘つきのクズ女だから、なにを……」
『バチンッ!』
あまりにも酷いことを言うので、思わずラミュルの頬を叩いてしまった。
「なっ、なにをするの?」
「周りの人の言葉じゃなく、どうしてたった1人の母親の言葉を信じないんだ?セナは何1つ嘘をついてないんだよ」
「他人のあなたに何が判るのよ!この人は私のお兄ちゃんに……酷いことをしたのよ」
ラミュルは頬を押さえると、今にも泣きそうな顔をしながら俺が酷い目にあったと伝えた。そんな事実はないことを信じてもらう為に、俺は2人にしか判らない言葉を伝えることにした。
「ラミュル、兄ちゃんは一緒に行けない。ママが1人になっちゃうだろ?ラミュルが帰ってくるまでは、兄ちゃんが必ずママを守るから頑張るんだ。出来るよね?」
俺の言葉を聞いたラミュルは、目を大きく見開いて固まってしまった。
「ごめんね。兄ちゃんはラミュルとの約束を守れなかった……」
「ど、どうして、その言葉を知ってるの?私とお兄ちゃんしか知らない約束なのに……」
「僕はヤンカー領で起こったスタンピードで、セナを守る為に死んだしまったウォード.レーカーの記憶を持ったまま転生した者だよ」
俺は2人に転生者であることを伝えた……
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