第57話 セナとラミュルと……

 門を抜けて大通りを通っていると、馬車を停めることができる宿があったので、家馬車ルーロットを停めてから宿へ入ると受付が声をかけてきた。


「いらっしゃい、何人だい?」

「こんにちは、5人で泊まれる部屋は空いてますか?」

「風呂付きの部屋ならあるけど、少し値がはって一泊50銀貨なんだけどそれで良いかい?」


 門兵に許可証を見せると利用税が半額になると聞いていたので、許可証を取り出して受付に見せた。


「はい、それで構いませんが、えっとこの許可証を持ってます」

「おっ、それなら40銀貨だよ。うちは先払いだからね」

「判りました」


 許可証を見せると10銀貨も安くなった。宿泊料金は30銀貨で利用税は20銀貨だったのか……、ヤンカー市の高額な税率に驚いてしまった。


 俺が宿泊代を払おうとすると、パミュルが受付に話しかけた。


「パーティーメンバーが持病で苦しんでるの。どこかに良い治療所はないかしら?」

「おっ、それなら元聖女候補のラミュルちゃんが、白魔術師としてヤンカーに戻ってきたから診てもらうと良いよ」


 ラミュルは白魔術師としての修行を終えて、ヤンカー市に戻ってきたようだ。しかし、聖女候補になっていたとは兄として誇らしい限りだ。


「戻ってきてたということは、ここの出身の方なんですか?」

「あぁ、前の領主のレーカー男爵の忘れ形見でな、父に似て優秀な娘さんだよ」

「そうですか、明日にでも伺おうと思いますが、何処へ行けば良いのでしょうか?」

「普段は教会にいるはずだよ」

「あの、ご実家ではないんですか?」


 パミュルが居場所を確認すると、実家ではなく教会に居ると言ったので思わず会話に割り込んでしまった。


「あっ、あぁ、ちょっと訳ありでね。ラミュルちゃんは母親と絶縁状態でね……」

「2人に何があったんですか?」


 受付が少し気まずそうに話すと、俺はさらに踏み込んで理由を尋ねた。


「ラミュルちゃんにはウォードって兄がいたんだよ。その兄がスタンピードが起きた時に、母を守る為に魔物に立ち向かって命を落としたんだけど、時間の経過とともにある疑惑が浮上したんだよ」

「疑惑?」

「あぁ、性的な虐待があったらしい。それが表沙汰になってからは、街の全員から避けられてな今じゃ貧民街で細々と暮らしてるよ。戻ってきたラミュルちゃんもそのこと知ってからは援助を止めて絶縁状態になったんだよ」


 セナが俺に虐待をしてた?そんな事実はない。何を根拠にそんな疑惑が浮上したのかを聞いてみる。


「そのお母さんは虐待を認めたんですか?」

「本人は否定してるけど、子供ができたんだからどれだけ否定しても無理だろう?」

「はっ?子供?」

「あぁ、ウォードにそっくりな女の子が生まれたんだから疑う余地はないだろう?」


 このヤンカー市には、セナとラミュルと俺とセナの間にできた娘がいるらしい……。

 その娘が生まれたことでセナが俺に性的虐待をしていたと思われ、住民達に忌避されたということらしい。そして、ラミュルはそのことを信じて絶縁したのか、なんとか誤解を解かないと、それにしても前世の俺に娘が居たなんて……

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