第10話 知らんぷり

 メルローズの父コスター男爵の口から、パミュル.レーカーの名が出たのだった……


「君はパミュル、パミュル.レーカーなのか?」

「確かに私の名前はパミュルと申しますが、男爵様が言われたパミュル.レーカーとは別人です」


 コスター男爵に声をかけられたパミュルは、顔色一つ変えずに答えた。


「そうか、そうだな。私の知ってるパミュルは既に亡くなっていた……他人の空似だね。いきなり話しかけて済まなかった」

「いいえ、お気になさらず」


 凄い演技力だ。俺ならウォード.レーカーとかいきなり言われたら『ギクッ』として、あんなに冷静に対応できなかったと思った。


「もぅ、パパ!私の話を聞いてないの?」


 メルローズは口を尖らせながら男爵に文句を言うと、突然我に返って必死に娘に謝る。


(この人は本当に親バカだ……)


「メル、ちゃんと聞いてたよ!ガレリアへの護衛の件だね。でも、君はメルを守り抜けるのか?」


 これは『無理』と答えれば護衛を受けずに済むと思った。ただ、ここで断るとメルローズはガレリアへ向かう事ができず、ガレリア学園に入学できなくなると思った。貴族子女にとって学園入学と卒業は、今後の人生を左右するはずなので、それはあまりにも可哀想過ぎるよね。なので俺は嘘をつかずに返事をする。


「やれるとは言いきれません。どんなに簡単と思われる依頼でも、失敗する可能性があるのです」

「君は決して嘘をつかない真っ直ぐな男なんだね。フォードのような真っ直ぐな目だね。今日は本当に懐かしい気持ちにさせてくれる日だよ。どうかメルの護衛を受けてくれないだろうか?」

「僕達で良ければ喜んでお受け致します」


 その後は、担当者にコスター男爵からの指名依頼を作成してもらい、メルローズをガレリア学園まで護衛する事となった。


「ウォード君、これが我が家の地図だ。明後日の朝に来て欲しい」

「判りました。では、これで失礼します」


 俺は男爵とメルローズに挨拶して帰ろうとすると、メルローズに声をかけられる。


「ウォード様、ガレリア学園までの護衛よろしくお願いしますね」


 眩しほどの笑顔ですり寄ってくると、パミュルが咄嗟に間に入って、それに負けない笑顔で返事をした。


「お任せください。私達4人が必ずガレリア学園までお届けします」

「そ、そう、よろしく頼むわね」


 2人の笑顔がぶつかって、『バチバチ』なるのではないかと思えた……


(これは護衛の時に衝突は避けられないかな?)


 部屋へ戻ると、パミュルにコスター男爵の事を知ってるのか聞いた。


「フォスターの親友だったのよ。結婚式の時に色々とサプライズをしてくれたのよ」

「よく表情に出さずに対応できたね?」

「ふふっ、女はね、あの程度の嘘なら簡単につけるわよ」

「そ、そうなんだね。ハリエットもそうなの?」

「私は無理かなぁ〜」

「ふふっ、女としての経験値の差よ」


 女って怖いと思った瞬間だった……

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