第118話 心の石

 俺が精神の間から出てくるなり、2人に抱き着かれた。抱き着いてきた腕には力がこもっていて、かなり心配をしていたのだと思った。


「ただいま、心配を掛けたね」

「離れてる時間が永遠に感じるほどに長かったわ。本当に無事で良かった」

「……」


 パミュルは心境を話してくれたけど、ハリエットは無言で涙を流しながら抱き着くだけだった。


 その後は、ハリエットの落ち着きを取り戻す事を優先して、この日の攻略を中止して、小部屋へ入って休養する事にした。


 小部屋へ入ってからも、ハリエットは俺から離れようとしなかったので、そのまま落ち着くのを待った。俺やパミュルの言葉には反応をしてくれるので、精神の間であった事を2人に説明する事にした。


 俺の見た事の全てを話し終えた頃には、ハリエットも落ち着いたようで、今は俺の隣に座って手を繋いでる。


 全てを聞いた後に、パミュルが少し眉間にシワを寄せながら想いを口にした。


「神話にあったセレン島の悲劇は実話で、聖女の母とスレイン王が双子の兄妹だったなんて、全てを奪われた深い怒りと悲しみは、私達には想像も出来ないわね。ただ言えるのは、ウォードが人の裏切りによって命を落としたら、私は聖女と同じように人を滅ぼそうとするわね」

「愛する人を奪われれば、そうなるのは必然な事だとすると、人魔はこの負の連鎖から逃れる事は無理なのか……」


 パミュルの言った事が全てだと思う。人魔の間で繰り返された戦いによって、どちらも引く事が出来ないという大きな壁がある。


(俺も、人にパミュルを殺されれば人を恨む。魔物にハリエットを殺されれば魔物を恨むな……)


「僕は精神の間から出る直前に、ルクンナ洞の隠し部屋で聞いた時と同じ声に語り掛けられたんだ。『あの娘の悲しみを止めてあげて』とね。」

「ウォードはその声の期待に応えるの?」


 ハリエットはそう言ってから、俺の手を握る力が強くなっていた。


「今の僕では無理だよ。やるべき事の優先しなければいけない事もあるからね。でも機会が訪れるなら努力はするつもりだよ。この石に誓ってね」


 俺はそう言ってから、精神の間で手に入れた心の石を2人に見せる。


「それはどういう物なの?」


 瑠璃色の珠を見たパミュルが、俺にどういう物か聞いてきたけど、俺も鑑定してないので判らなかった。



「これは心の石だよ。どういう物かは判らないから、これから鑑定するよ」


【心の石】本質を見抜いた者が手にする事ができる石。心の石の所有者は心眼を得て、決して欺かれる事はない。


 俺が心の石の内容を2人に伝えると、2人は迷わずにこう言った。そしてその後に、ハリエットは一言付け加えた。


「「ウォードに相応しいね」」

「誰も手にする事が出来なかった物だから、手にした者しか所有者になれないと思うしね」


 確かに見抜いた者が手にする事が出来るとあったので、俺が所有者となる事になった。

 

 俺は心の石を手にして、所有者になる事を願いながら力を込めて握りしめると、手に熱を感じると同時に光を放った後に心の石は消えた。


 自分では確認出来ないので、ハリエットに鑑定メガネを渡して確認してもらうと、俺に新たな天賦〚心眼〛がある事を教えてくれた。



 


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