オールナイト トレイルラン(All night trail run) 鬼火編
最時
第1話 鬼火
八月午後七時。
伊吹山登り口の神社の駐車場に車を駐めた。
伊吹山は岐阜県と滋賀県の境にある標高1300m程の独立峰だ。
なだらかな綺麗な山容で、この近辺では最も高く存在感がある。
東海の富士山と言ったら方方から怒られてしまうだろうか。
山頂近くまで有料道路があり、それで上がることも出来るのだが登山コースタイムで山頂まで4時間程度。
特に危険なところも無く、初心者でも登りやすいため多くの登山者が登る。
午後七時。
日は沈み、薄暗くなり、この時間に人気は無い。
登山は早出早着で日の出くらいに出発して、遅くとも日没までに降りるのが基本だ。
しかし俺がやっているのはトレイルランニング。
長いものだと100kmを越える登山道を含む道を走るレースのトレーニングで来た。
スタート時間が午後や夕方の大会が多い。
つまり夜通し山を走ることもあるわけで、こういったトレーニングも必要だ。
今回は日の出あたりまで2,3回登る予定だ。
いくら知った山とは言え、一人で夜山を走るのは安全上好ましく無いとは思うが、いつでも仲間達と都合が合うわけではない。
今回は一人で走ることにした。
初めた頃は薄暗い神社の不気味さや、視界の狭まる暗闇の登山道に恐怖を感じたが人間なれる物だ。
ヘッドランプもかなり明るい物を使うようになって、知っている道では昼走るのとほとんど変わらなく感じている。
斜面をゆっくり走る。
今年は暑い。
この時間でも28度近いんじゃないか。
汗が流れる。
夏はジムで走るか、高地へ行くか、夜走るかだ。
ここも、もちろん平地よりは涼しいのだが1300m伊吹山の日中登山は灼熱地獄と言って良いだろう。
登山道に日光を遮る木がほとんど無い。
そのことを考えれば夜は走っていられる。
しばらく登って、ふと顔を上げると100m位先にランプの明かりが見えた。
駐車場には車はなかったし、他の登山道から上がっている同業者かと思った。
追いつけないかなと徐々にペースを上げていった。
「はあ、はあ、はあ、はあ」
速い。
速すぎる。
対抗意識から今日夜通し走ることを考えず、全力になってしまっていた。
それなのに距離が縮まらない。
向こうも同じ事を考えているのかも知れない。
「はあ、はあ、はあ、はあ、くそっ」
脚が止まった。
「はあ、はあ、はあ、はあ、はあ」
ドッ ドッ ドッ ドッ ドッ ドッ
呼吸が苦しく、動悸が収まらない。
「おかしい」
俺は座り込んだ。
「身体がおかしい。よりにもよって一人のときに」
上を見るとランプは見えなかった。
「何かの影に隠れているのか、ランプを消したのか」
スマホを取り出して見るが電源が落ちて起動しない。
「なんて日だ」
まだ動悸が収まらず、脂汗が出て寒気を感じた。
「ヤバいな」
水とジェルをなんとか飲んで、ウィンドブレーカーを着て横になる。
先行者が降りてきたときに発見してもらえるかもとヘッドランプを点滅にした。
しばらく横になっていると動悸が落ち着いてきた。
しかし身体が重い。
もう少し休めば動けるようになるだろうとそのまま横になっていると意識を失った・・・
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