第9話 秒で落ちた

 それから偉い人たちが解散しても、イェルド様とアンナは手を繋いで過ごした。


 部屋で過ごすのも一緒、ご飯も一緒。トイレや着替えなど人間の尊厳を守るときだけは離れたけれど(その時初めてイヤリングの結界魔法に頼った)それ以外はずっと手を繋いでいる。


 ちなみにイェルド様の身だしなみは、何かあってはいけないので全て浄化魔法に頼っている。

 幸い光属性のイェルド様は治癒魔法と同じくらい浄化魔法が得意だった。結界魔法も使えるというし、何でもできるのに呪われてしまった不幸な人である。


 そして夜になったので、これから寝る。の、だが。


 「すみません……」


 「いえ、呪いのせいですから……お気になさらず……」


 夜着に着替えたアンナとイェルド様は、二人っきりで手を繋いだまま並んでベッドに腰かけている。ひたすら謝るイェルド様に、アンナはぎこちなく微笑む。


 最初、手を繋ぐという話が出た時点で「婚約者がいるので困ります!」と抗議できたアンナは今まで生きてきたなかで一番偉かったと思う。


 ただ、この国で一番偉い人国王陛下の「この問題において起こった何らかの不備は一切不問とし、アンナ・セーデン男爵令嬢の名誉はアレクサンデル・アベニウスの名において保証される」と宣言されてしまえば、もはやアンナに抵抗する手段などない。


 むしろここまで言われているのだから、光栄至極に存じますと最敬礼して任務に当たらねばならない。非正規雇用の契約隊員とはいえ、魔王討伐軍輸送部隊所属なので。


 「申し訳ないです……」


 しゅんと肩を落としたイェルド様と、おたおたするアンナは、それからどうにかこうにか就寝した。


 緊張と婚約者に対する罪悪感とで吐きそうになりながら目を閉じる。

 きっと寝れないだろうなと思っていたのに、アンナの神経は案外図太かったらしい。


 ロイヤル仕様のふかふかベッドとふわふわ布団に包まれて、アンナの意識は秒で落ちた。


 人肌の、ぬるくて優しい体温も心地よかった。

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