第112話 わたしって……

 バルバナル商会の馬車に乗せられ村にドナドナ。わたし、何しにランザカ村に行ったんだ?


 そのままお店に連れて行かれて事情を説明することに。


「ハァー。どんでもないものを作りましたね」


「回復魔法の下位互換、って感じですけどね」


「それでもです。どうしたものか?」


「売ったらいいんじゃないですか? あ、献上でもいいのでは? コンミンド伯爵様に五つ。残り五つは各支部に渡して権力者にでも売ればいいと思いますよ」


「それでは欲しがる人が増えるのでは?」


「いきなり世間に広がるわけでもないんですし、さらに下位互換のものを用意して売り出せばいいんじゃないですか?」


「どんなものですか?」


 ミサンガを出してマルケルさんに渡した。


「治癒力上昇する付与を施しました。さすがに回復魔法を転写したらわたしの魔力がぶっ飛びましたので」


 ティナが集めたリストバンドもマルケルさんに渡した。


「ミサンガはマッチと同じです。魔力さえあれば治癒力上昇は付与されます」


 付与できる箱も出して渡した。ハイ、これで打ち止めです。


「やはり病気や怪我は薬を使ったほうが費用も手間もいいですね。今度、薬師さんを紹介してください」


 薬ならわたしでも作れそうな気がする。付与魔法はどうした? とかは言わないでくださいね。


「キャロルさんは少し落ち着いたほうがいいですね」


「ボクもそう思う。無茶しすぎ」


「そ、そう?」


 無茶はしてないと思うんだけどな~。


「キャロルは閉じ籠めておくのも自由にするのもダメな感じよね」


「なにかを極めさせるのも危険でしょう。何を生み出すかわかりませんからね」


 え? わたしってそんな感じで見られてたの?


「マリ。キャロが問題を起こさない方向ってわかる?」


「うーん。キャロルはどこにいても問題を起こすと思うよ。これはもう天命みたいなものだと思うから」


 ヤダ。わたしの評価最悪なんだけど。


「山にでも籠れって言うの?」


「籠った結果が今じゃない」


 うぐっ。辛辣なティナさんだこと。


「じゃあ、しばらく魔力を籠めることに徹するよ」


 何もするなはさすがに窮屈だ。それなら魔力を籠めることをやるわ。わたしの付与魔法は魔力次第。魔力がなければどうにもならないんだからね。


「可能なのですか?」


「前にライターを見せてもらったから出来ると思います。あれにも魔力を溜める魔法が施されているはずだから転写出来ると思います」


 この世界にはわたしと同じ固有魔法を持った人がいる。その人が頭がいいのはライターを見てわかったし、その人が出来ることはおそらくわたしにも出来るはずだ。


「そうですね。魔力が足りなくて困っていたところです。そうしていただけると助かります」


「はい。しばらくは魔力籠めに徹します」


 魔力がなくてもやりたいことはたくさんある。もしかすると、魔力を鍛えたら増えるかもしれない。それならやる価値はあるってものだ。


 この日はバルバナル商会にお世話になり、馬車で山の家まで送ってもらった。


 家に到着すると、レンラさんたちが迎えてくれた。


「ゴブリンが出たそうですね」


「はい。わたしたちは怪我人の世話くらいしか出来ませんでした」


「ティナさんはともかくキャロルさんは戦闘は不向きでしょうからそれでいいんですよ」


 レンラさんから見たらわたしなんて孫みたいに見えるんでしょうね。見た目も幼いしね……。


「しばらくわたしは魔力籠めで家にいますね」


「ティナさんやマリカルさんは?」


 どうするんだろうと二人を見た。


「ボクは狩りかな?」


「わたしは薬草や山菜を採るかな?」


 いつものとおりか。


 パーティーを組んでいるとは言え、何でも皆でやるってことはない。まだわたしたちは未熟であり修行中。出来ることを増やしていく時期なのだ、と思う。

「こんな感じですね」


「平和で何よりです」


 まあ、平和と言えばそうだけど、冒険者を目指す身としてはどうなんだ? 


「剣の稽古でもするかな?」


 戦いのセンスも狩りのセンスもないけど、だからって練習しない言いわけにははらない。最低限、剣を使えるくらいにはなっておかないとね。


「ほどほどに」


「はい。ほどほどにします」


 帰って来たばかりなので家の空気換えをして掃除してと、何だかやることいっぱいね。わたし、スローライフとか目指しているわけじゃないのに、日々がスローライフになってないか?


 何かこう、転生者なら厄介事とかトラブルとか押し寄せて来るようなもんだけど(イメージ)、わたしの今生平和よね。


「キャロル。今日は凝ったものが食べたいわ」


 いや、平和は平和でも毎日が飽きない日々を送っているわね。しゃべる猫がいたりボクっ娘がいたり、猫耳少女がいるんだから。


「じゃあ、ティナ。手頃な鳥を狩ってきてよ。野菜を入れてオーブンで焼くとさしましょうか」


「わかった。マリ、どっちにいるか調べてよ」


「任せて。わたしも味の濃いものを食べたいし」


 何だかんだとわたしたちっていいパーティーだよね。さて。オーブンに火を入れるとしましょうかね。


 エプロンをかけて台所に向かった。

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