第87話 銅星一つ

 ゴブリンは何の素材にもならず、魔石が取れるわけでもない。ただ、討伐対象とはなっているようで、耳を切り落として冒険者ギルドに持って行くとお金になるらしいわ。


 何事もなくカルブラ伯爵領に到着。バイバナル商会の支部に向かう前に冒険者ギルドへゴー。カウンターで要件を告げてゴブリンの耳を出した。


「……あなたたちが倒したの……?」


 受付のおねーさんに驚かれた。


「相棒のティナが一人でやりました。わたしは見てるだけでしたね」


 わたしはまだ戦闘を出来るほど強くはない。物作りばかりで戦闘訓練もしてこなかったしね。


「どこで遭遇したかわかる?」


 鞄から自作の地図を出し、ゴブリンが出た場所を説明したら受付のおねーさんが黙ってしまった。どうしました?


「ちょっと待ってて」


 そう言って下がると、白髪のおじちゃんを連れて戻って来た。


「こいつらか?」


「はい。ウソを言っている感じはありません。場所も正確です」


 確かにわたしたちのような見習いたちがゴブリンを倒しましたって言っても信じられないわよね。


「ゴブリンが装備していたものもありますよ」


 冒険者ギルドに来る前に背負い籠に入れてある。まあ、八匹分となると二人でもキツいので、運んで来たのを疑われないか心配だけど。


「随分と綺麗だな」


「売れるかなと思って汚れないように倒して綺麗にしました。これって買い取りしてくれますか?」


 ダメなら解体して別のものの材料にするわ。


「もちろん、買い取るさ。他に情報があるならそれも買おう」


 なかなか出来るおじちゃんのようだ。まだ隠していると察したのでしょうね。隠しとおせないか。


 仕方がないのでゴブリンを解体したときの絵を出した。


「……お嬢ちゃんが描いたのか……?」


「はい。ゴブリンがどんな生き物か興味が出たので。可能なら剥製にして取っておきたいくらいです」


 ルルの結界があられば可能なんだけど、ティナが嫌がったから止めたわ。どこかで保存してくれないかしら?


「そ、そうか。相棒も大変だな」


 なぜかティナを見るおじちゃん。何がよ?


「ま、まあ、これだけの情報なら銀貨十枚、いや、十五枚は払おう」


 十五枚とは破格だこと。そんなに重要だったのかしら?


「銀貨五枚は銅貨でください。細かがないんで」


 露店を使うなら銅貨のほうが使いやすいのよね。


「あと、これに名前と出身地を書いてくれ。あと、お嬢ちゃんたちを正式な冒険者とする」


 お金をもらうと、紙を出された。


「十五歳からじゃないんですか?」


「決まりはそうだが、才能がある者は特例で冒険者にさせることも出来る。お嬢ちゃんは今から銅星一つだ」


 タグみたいなものを出され、そこに星が一つ、刻印されていた。


「次からはそれを見せるといい。ちなみに星が三つ刻印されたら鉄星に進級出来る。まあ、星を三つ溜めるとなると十年は必要だがな」


 それが十一歳と十二歳に与えるとか、ゴブリンの情報はそれだけのものだったことか。


 出された紙に名前と出身地、あと、年齢を書いた。


「末恐ろしい子が入って来たのかもな」


「はい?」


「いや、何でもない。ところで、カルブラ伯爵領に来た理由は何だ?」


「バイバナル商会にお届けものを運んで来ました。行く前に冒険者ギルドに寄ったんです」


「バイバナル商会とは大きい商会だな」


「ここでも大きいんですか?」


「あの商会は王国中にある。規模だけ言えば三番目、と言ったところだな」


 あれで三番目なんだ。さらに大きな商会があるとか想像が付かないわね……。


「それと、武器屋を紹介してもらえますか? 相棒が弓が欲しいって言うので」


「それなら紹介状を書いてやるよ」


 その場で紙に書いてくれて渡してくれた。なかなか気前がいい人で助かったわ。


「ギルドを出て右に四軒目だ。支部長のロッグからだと渡すといい」


「ありがとうございました」


 ギルドを出て四軒目のところにあったのは工房のようなところだった。武器屋じゃないんだ。


「こんにちは~。支部長のロッグさんの紹介で来ました~」


 そう声を掛けると、汚れたエプロンを掛けた四十くらいのおばちゃんが出て来た。


「ロッグの紹介だって?」


「はい。これ、紹介状です」


 出した紹介状を渡し、中を読んだおばちゃんは「ふ~ん」と声を出した。何?


「弓が欲しいのはどっちだい?」


「ボク」


 お休みの問いにティナが手を挙げた。


「じゃあ、こっちに来な。そっちのお嬢ちゃんは待ってな」


 ティナだけ連れて奥に行ってしまったので、仕方がなく待つことに。長くなりそうだから店内を見て待つことにした。


 ここは木を使った工房のようで、弓だけじゃなく箱とか簾なんかも作っているんだ。弓だけじゃ食べて行けないってことかしら?


「商売って大変なのね」


 手に職があまってもままならないか。わたしもいろんなことが出来るようになって食べるのに困らないようにしないとな~。


 三十分くらいしてティナとおばちゃんが戻って来た。


「キャロ、銀貨三枚だって」


「わかったわ」


 銀貨三枚か。五枚くらいかな? って思ってたのに、案外安かったのね。知り合い割引してくれたのかしら?


 銀貨三枚をおばちゃんに渡した。


「矢はどうする?」


 あ、矢ね。弓だけじゃ意味なかったっけ。


「じゃあ、五本ください」


 鏃さえあればわたしでも作れそうだしね。まずは五本で構わないでしょう。


「あの、あの棚に並んでいる箱も商品ですか?」


「そうだよ。何か欲しいものでもあったかい?」


「はい。小物を入れる箱が欲しかったんです」


 自分で作るとなると時間を取られちゃうからね。買えるものなら買っておきましょう。


 なかなかいい値段はしたけど、物はいいので十個ほど買わしてもらった。


「毎度あり。また来ておくれ」


「はい。帰りにまた寄らせてもらいます」


 お母ちゃんのお土産にするとしましょう。

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