第9章

第84話 力は使い方次第

 春の季節になってきた。


 いつまでもクラフトガールはやってらんない。わたしは冒険者として旅がしたいのよ。その力を身に付けなくていけないのよ。なのでわたしたちは旅に出ることにした。


「カルブラ伯爵領ですか?」


 レンラさんや職人さん、ロコルさんに伝えた数日後、ローダルさんがやって来てお使いクエストをお願いしてきた。


「ああ。どうせ旅をするなら目的があったほうがいいだろう。カルブラ伯爵領ならここから歩いて五日から六日の距離だ。そこにあるバイバナル商会の支部にこれを届けて欲しい」


 と渡されたのはマッチ箱サイズの金属板だった。


「何です、これ?」


「何であるかは秘密だ。それをバイバナル商会の支部に届けるのがおれからの依頼だ」


 まあ、お使いに何であるかを知らせる必要もないか。でも、見習いにやらせる仕事なの? かなり大切なものっぽいけど……。


「重要なものではあるが、誰も見習い冒険者に依頼したとは思わないだろう。それなら肌身に付けておけば盗まれることもないからな」


「盗もうとするのがいるんですか?」


「いるさ。子供だと思ってナメてくるヤツもいる。それらを跳ね退けての冒険者だ。やるか?」


 そこまで言われて断ったら冒険者になる覚悟がないと言っているようなもの。受けるしかないじゃない。


「カルブラ伯爵領にあるバイバナル商会の支部にこれを届ければいいんですね。期限はあるんですか?」


「特にないが、十五日以内なら問題ない。確実に届けてくれたらそれでいい」


 随分と甘々なお使いクエストだこと。これ、お使いクエストじゃなく接待クエストだったりする?


 まあ、ローダルさんの言うとおり、目的地や目的があったほうがやる気が出るってものだわ。


 準備はもうできているので、次の日には出発することにした。


 何だか初めてのお使い並みにたくさんの大人たちに見送られて出発。まずはパルセカ村にあるバイバナル商会に向かう。


 わたしはパルセカ村やロンドカ村しか行ったことがない。あとは山だ。カルブラ伯爵領がどっちにあるかもわからない。なので、バイバナル商会で地図を買うことにした。


 マルケルさんにローダルさんから依頼を受けたことを伝え、地図を売ってもらった。


 概略図? としか思えない地図が銀貨一枚と、なかなかいい値段がした。これでも安くしてくれたんだからこの時代の地図学(?)は遅れているようだ。


 まあ、行商人や隊商は決まったルートを通るのでこれで充分なのだそうだ。


「地図って、細かく書いたり正確に描いた罰せられたりします?」


 元の世界で罰せられた時代か国があったみたいなことを本で読んだことあるわ。


「そんなことはありませんよ。もっと精巧な地図もあります。その分、値段は上がりますが」


 あ、あるんだ。ただ、地図が高い時代だってこと?


「それならわたしが作っても問題外ないってことですね」


「ええ、まあ、そうですね。作ったら見せてください」


「わかりました。と言ってもそう精巧な地図は作りませんけどね」


 まだ精巧な地図を必要とするほど旅をするわけじゃない。ただ、方位磁石は欲しいところよね。磁石の代わりに付与魔法で作れるかな? と、作ったら出来ちゃった。


「……わたしの付与魔法何でもありだな……」


 まあ、アイテムバッグとか作っている時点で何でもありなんだけどね。ただ、魔力が少ないようにも思える。アイテムバッグを作ると気絶しちゃうからね。


 付与魔法はチートでも魔力はチートじゃないけど、まあ、そこまで付与魔法に頼った生活は……してるか。ま、まあ、便利は正義。ゆるく冒険を楽しみましょう。


 矛盾してるやん! とかの突っ込みは聞きませ~ん。わたしは今生を謳歌するんだからね。


「冒険者が利用する宿で汚くて嫌だわ」


 初めて宿はロンドカ村にある冒険者御用達みたいな宿だ。バイバナル商会で泊まれとマルケルさんが言ってくれたけど、冒険者が利用する宿も経験したから断ったのよ。


 でも、ちょっと後悔している。こんなに汚いものだとは思わなかった。これなら野宿のほうがマシだわ。


「キャロの魔法で何とかならない?」


 ティナも嫌そうな顔をしている。すっかり綺麗好きになっちゃって……。


「ルル。結界で部屋を作れないかな?」


「結界で部屋?」


 首を傾げるルルに別空間に結界を作り、部屋として使うことを説明した。


「……キャロって変なこと考えるわよね……」


 変な猫に変と言われるわたし。まあ、前世の記憶を宿している時点で変だから受け入れるしかないわね。


「で、出来そう?」


「ちょっと絵にしてちょうだい。そのほうがイメージしやすいからさ」


 わたしと話しているせいか、前世の言葉をちょくちょく口に出している。いや、わたしが使っているのか。気を付けないとならないな。


 絵にしてルルに伝えると、ルルも納得。結界部屋を作ってしまった。


「……自分の力が怖くなってきたわ……」


 どうやらルルの魔法もチートっぽい。出来たことに戦いているわ。


「まあ、力は使い方次第よ。出来たことに喜びましょう」


 結界部屋に入り、まずはお風呂にすることにした。

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