第66話 銀星

「……誰か使ったみたいね……」


 山菜採りのために作ったシェルターに置いていた薪が減っていた。


 まあ、道具はすべて持ち歩いているので薪くらい構わないのだけど、使ったら足して欲しいものだわ。マナーってものを知らないのかしら?


「二日前くらいだな」


 竈を見てわかるものなんだ。わたしにはさっぱりなんだけど。


「こんなところまで入ってくるものなのね?」


 ティナの背負子に乗ったルルが尋ねた。確かにここは四日くらい歩いた山の中だ。冒険者でも来ないだろうと思ってシェルターを作ったのにな~。


「何人だかわかる?」


「足跡から四人か五人。靴の跡から高位の冒険者かも」


 足跡でそんなことまでわかるんだ。ティナ、凄すぎるんだけど!


「まあ、いなくなったのなら構わないでしょう。明日に備えて今日は早めに休みましょうか」


「ああ。ルル。念のため結界を張って」


「お任せあれ」


 冒険するときはティナがリーダーなので指示には反対しない。わたしは置いていた薪を竈に入れてニューバージョンのマッチで火を点けた。


 松明(松ではない木から取った油脂なんだけどね)を出して木に作った台にセットした。


 結界があるから獣や魔物が現れても平気だけど、無駄に殺生することもない。ここにわたしたちがいることを示すために松明をセットしたのよ。


 安全が確保されたので、今日の夕食は鶏ガラスープに味噌(たぶんそんな感じのもの)を混ぜた豚汁すいとんを作ることにした。


「──ティナ。誰か来るわよ」


 え? 誰か来るって?


「ルル。結界をシェルターを囲むまで小さくして。キャロは対応して。ボクは隠れて様子を見る」


 弓矢を持ってシェから出て闇の中に隠れた。


 わ、わたしが対応するの!? ちょっと怖いんですけど!!


「大丈夫よ。わたしの結界を破れる者はいないから。竜とかならわからないけど」


 まるで竜に会ったことあるの? わたしは遠くからなら見てみたいわね。戦うのは絶対に嫌だけど。


 ルルの結界を信じて豚汁すいとんをお玉で掻き回して待つことにした。


 どんな結界かはルルが決めているので、今どんな結界かはわからない。けど、音は通るらしくカチャカチャと金属音が聞こえて来た。


 現れたのは二十歳過ぎくらいの男性三人と女性一人、そして、耳の長い美形の人だった。


 ……ま、まさか、エルフなの……!?


 異種族がいる世界なんだ。これは竜がいても否定出来ないわね……。


「……お嬢ちゃん、人かい……?」


「人ですよ。もしかして、お兄さんたちがここを使っていた人?」


 ここをキャンプにしているなら荷物を置いてそうだけど、そんなものはなにもなかった。荷物はすべて持ち歩くタイプなのかな? 荷物はそんなに持ってないみたいだけど。


「ここは、お嬢ちゃんが作ったのかい?」


「はい。山葡萄を採ろうと思って作りました。お兄さんたちも?」


「いや、おれたちは薬草探しだ。もう五日はこの辺をさ迷っているよ」


 お仲間さんがわたし以外に誰かいるのかと辺りに目を向けていた。


「見てのとおりおれたちは冒険者だ。グレンルと名乗っている銀星だ」


 銀星? 階級かしら?


「わたし、まだ見習い冒険者なので銀星がなんなのか知らないです。銀星って凄いんですか?」


「見習いがこんな山の奥まで来ているのか?」


「はい。修業のために山の中を歩いています。採取はついでですね」


 修業がついでになっている今日この頃ですけど。


「リュード。妖精猫だ」


 と、エルフの美形さんがルルに気が付いた。エルフ界では有名なの?


「妖精猫? あの伝説のか?」


 伝説? そんな存在なの、ルルったら?


「お嬢ちゃんが飼っているのか?」


「飼っているわけではないですよ。ルルは仲間です」


 わたしたちは冒険者パーティーの仲間同士。猫の形をしているだけよ。


「お兄さんたち、ここで野宿するために来たんですか?」


「ああ。可能であれば一緒に野宿させて欲しい。こちらはお嬢ちゃんたちに危害を加えるつもりはない。もちろん、隠れている仲間もだ」


 おー! ティナのことわかっていたんだ。銀星ってかなり高位の冒険者なの?


「妖精猫がいるのに危害なんて加えようと思っても加えられない。こんな結界を張られていたらな」


 どうやらエルフさんは男の人のようだわ。


「ティナ、どうする?」


 わたしには判断出来ないのでティナに任せるとする。


「……いいんじゃない。嫌な感じはしないし」


 ティナは直感派だから嫌な気配を感じないなら問題ないでしょう。


「薪を集めるのを手伝ってもらえるなら食事も提供しますよ」


 仕事を求めるほうがお兄さんたちも気が楽でしょうよ。


「それはありがたい。薪ならいくらでも集めるさ」


 商談成立と、ルルに結界を解いてもらった。


「お兄さんたち、先に食べていいですよ。また作りますんで」


 ルルとティナが大食漢だから五人枚は余裕である。お腹一杯ってわけにはいかないでしょうが、一食分にはなるでしょうよ。


「パンも食べますか? それとはちょっと合わないですけど」


「いただけるなら何でも食うさ。冒険中に温かいものを食えるなんてないからな」


 そうなんだ。じゃあ、何を食べているのかしら? 干し肉とか?


「皿がないので使い回してください。パンは一人一つで我慢してくださいね」


「お嬢ちゃんの分は大丈夫なのか?」


「食料は十二分に持って来ているので大丈夫ですよ。足りなくなれば現地調達しますから」


 高位冒険者ならここで借りを作っておくのもいいでしょう。いろいろ教えてもらえるかもしれないしね。


 別の竈に鍋を置き、新しく豚汁すいとんを作ることにした。

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