第51話 ウール

 猪とはすぐに遭遇。ティナがあっさり狩ってしまった。


「身体強化魔法、完全に使いこなしているね」


 とても十歳の動きじゃない。可愛い服着せたらプリれるかもしれないわ。まあ、わたし見てなかったらよく知らないんだけどね。


「こうなると剣が欲しいところだ」


 兵士の人からハンバーガー五日分で買った剣で猪の首を落とせたら充分だと思う。でもまあ、お友達係で稼いだお金でいいのを買いましょう。


「その剣にも何か付与を施しているの? 尋常じゃない切れ味を見せているけど」


「よく切れるように、頑丈になるよう思いを籠めて研いだくらいかな?」


 まだ自分の固有魔法が付与かどうか怪しい頃に研いだから、どこまで付与が付いているかわかんないのよね。


「やはりキャロルの付与魔法は一味違うみたいね」


 確かに一味違いそうだけど、他を知らないんだから何とも言えないわ。


 猪を木に吊るして血抜きを行い、ルルが出してくれる火と水と氷で猪を解体していった。


「ルル、便利な能力ばかりね」


「城で暮らすにはいらない能力ばかりだけどね」


 まあ、そうね。お城では寝てるか食べているかのどちらか。まさに宝の持ち腐れ状態だ。


 鞄に入るくらいに切り分けたらもう一匹狩りに向かった。


 一匹目は簡単に見つけたけど、二匹目は同族の血でも嗅ぎ取ったのか、夕方近くにやっと見つけて狩ることが出来た。


 ルルが結界を張ってくれたので、安全に解体することが出来、そこで野宿することにした。


「キャロルたちといると毎日がご馳走だな」


 本当によく食べるわよね。その小さい体のどこに消えてんのかしら?


「よく働いてくれてるし、たくさん食べていいよ」


 何はともあれ役に立っているので食べたいだけ食べさせた。


 次の日は猪の姿はなく、ウールがたくさんいた。


「ウールって前にも増えたけど、こんなにまた増えるんだ」


 何か増えると大変なこと言ってたっけ。


「ルル。たくさん捕まえたいんだけど、結界で逃がさないように出来るかな? 唐揚げにしたいんだ」


 醤油はないけど、マー油で味付け出来るはず。きっと美味しいものが作れるはずだわ。まあ、作るのはお母ちゃんだけど!


「美味しいの?」


「美味しいよ」


 断言出来るほどウールは美味しいのよ。


「でも、何匹は生け捕りにする。卵はお菓子作りに必要だからね」


「任せなさい!」


 食には俄然やる気を出すルル。いや、ティナも同じで、結界に閉じ込めたウールを次々と首を落としていった。


 わたしは首がなくなったウールをロープに縛りつけて血抜きを行い、垂れなくなったのから内臓を取り出していった。


 根絶やしにしてる? とか頭の隅で思いながらも食欲で動く二人に手が止められない。夜遅くまでウールを捌き続けた。


「キャロル。お腹空いた」


 お昼も食べずにがんばったもんね。唐揚げは道具や調味料がないんで今日はウールの丸焼きを作ることにした。


 がんばったあとの丸焼きはとても美味しかった。ルルなんて四匹も食べてしまったわ。


「明日、帰ろっか。もう鞄にも入らないし」


 もう何匹捌いたかも、何匹鞄に入れたかもわからないわ。家に帰ってお風呂に入りたいよ。


「そうだな。このことも冒険者に伝えておくべきだ」


 あ、わたしたち、仮試験を合格して見習い冒険者になりました。


「そっか。他にもいるかもしれないしね」


 根絶やしにした気分でいたけど、ここにだけってわけじゃないかもしれない。知らないところで増えて凶悪な魔物も増えてたら洒落にならないしね。


 ルルに結界を小さく張ってもらい、焚き火をせず眠りについた。


 何だか肉食の獣っぽいものが集まった足跡があったけど、結界は何ともなし。姿もないんで結界を解いたらすぐに逃げ出した。


 山に入る広場に到着したらそこにいた冒険者たちにウールが大量に出たことや、肉食獣の群れがいたことを教えた。


 その中にベテラン冒険者のパーティがいたので、若い冒険者たちを率いて山の中に入って行った。


 女の子の冒険者は広場に残り、わたしたちが冒険者ギルドに報告しに行くことになった。


 運よく冒険者を運んで来た馬車に乗せてもらい、冒険者ギルドまで連れてってもらった。


「ウールか。今年は当たり時だな」


 おじちゃんにウールのことを話したらそんなことを言われた。


「よくあるんですか?」


「ああ。豊作の年によく増えるよ。何とも困ったものだが、そういう年は肉もたくさん食える。痛し痒しって感じだな」 


 特に今年は豚肉の消費が上がってしまった。ウールの肉は渡りに船って感じかもね。狩られる前にたくさん狩れたわたしたちは運がいいのかもね。


 乗せてくれたお礼にウールを二匹渡した。


「こりゃ、いい仕事になったもんだ」


 また会ったらよろしくと伝えて冒険者ギルドに入り、ウールがたくさん現れたことを伝えた。


「今年はいい年だ!」


 タイミングよくギルドにいた冒険者たちが稼ぎ時だとばかりに出て行ってしまった。


「ウール、人気あるんですね」


 ギルド職員の人に言ったらウールは人気がある鳥だと、何か前にも聞いたことを言われた。


 わたしたちの義務は果たさしたので、調味料を買いにバイバナル商会に向かった。

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