第44話 充実

 商談が終われば必要なものを買って家に送ってもらった。


 一週間だけなのにやたら懐かしく感じるな~。人は多いけど。


 もう刈り取りの季節に入っているのに、農家の人たちと思われる老若男女がやって来ていた。


「ただいま」


 まだ休憩する建物は造りかけで、料理は家の台所で作っているけど、なんか釜戸が増えており、お母ちゃんたちが忙しく料理を作っていた。


「お帰り! 城はどうだったい?」


 忙しくしながらも尋ねてくるお母ちゃん。もういつもの事って感じね。余裕が垣間見れるわ。


「料理以外は楽しいよ」


「なんだい、食べさせてもらってないのかい?」


「ううん。食べさせてもらっているよ。でも、うちの料理のほうが美味しいかな」


 わたしたち働いている者の料理はちょっと味付けが薄くてガツンとしたものがないのよね。


「あたしらはお城より美味しいもの食べてんだね」


「そりゃ、美味しいものを食べたいって熱量が違うからね」


 確かに熱量は違うわね。何だかまた新作料理が出来ているっぽいわ。


「豚肉料理、増えたみたいだね」


「ああ。そのせいで高くなっちゃったけどね。でも、羊は安くなったからそっちで美味しいものを作っていくよ」


 お母ちゃん、すっかり料理人の思考になっちゃっているわね。お城に行くの、失敗だったかな?


「あ、キャロルさん」


 さん付けで呼ばれるほどでもないんだけど、マイゼンさんが家に入って来た。


「お仕事ご苦労様です。繁盛しているようですね」


「ええ。早く建物が欲しいくらいです。今は物置を改造して使ってますからね」


 物置、使えたんだ。まあ、雨が降ってないから使えているんでしょうね。


「まだまだ掛かりそうですか?」


「急いでもらっているので秋の終わりに出来ると思いますよ」


 それは何より。わたしたちも冬の前にはお友達業も終わるから手伝えるわね。


「そうそう。砂糖を買ってきたので使ってください。これからお城では砂糖の消費量が高まると思うので手に入らなくなると思うんで」


 お城でのことを二人に話して聞かせた。


「それはすぐに買い付けに行ったほうがいいですね。今なら他の村に行けば安く手に入れるでしょう」


 砂糖、そんなに流通しているものなの? 大きな商会でしか手に入れられないものだと思っていたわ。


「あと、卵も手に入れられますかね? 卵も消費量が上がると思うんで」


 タワシは今も元気にしているけど、一匹では産む量も決まっている。これは買ったほうが早いかもしれないわね。


「わかりました。明日、ここに来る前に話をつけてきましょう」


「お母ちゃん、タワシが産んだ卵ある? クッキーの作り方教えておくよ」


「クッキー? 何だい、それは?」


「作ってみるよ」


 そのほうが早いしね、一から作って見せた。


「なるけどね。わかったよ」


 さすがお母ちゃん。一度見ただけなのに覚えちゃったよ。次に帰って来るときは美味しいものが出来てそうだわ。


「キャロルさん。帳簿を手伝ってもらいますか?」


 と、勘定当番のナイセンさんがやって来た。


「わかりました。ティナ、鞄に詰めておいて」


「わかった」


 鞄をティナに渡し、仮事務所にしている物置に向かった。


 七日前より事務所っぽくなった物置。まだまだ何も揃ってないのがよくわかるわね。


 まずは帳簿を見せてもらい、売上を確認した。


「帳簿にすると毎日どれだけ来るかよくわかりますね」


 まあ、来る人数にそう違いはないから売上の増減は少ないんだけどね。売上は上々と言っていいでしょうよ。


「屋台もよく売れいるみたいですね」


 わたしたちが売っていたときのように二時には終わっているようで、ミリアとロミニーは四時くらいで上がっているそうよ。準備は朝にやっているそうよ。


「そうですね。売上は上々です。もっと売って欲しいと要望がありますね」


「氷とか出せる魔法使いがいれば冷たいものも売れるんですけどね」


 わたしの固有魔法が付与魔法なら冷気を付与できるんだけどね。魔法のことも早く学びたいわ。


「今度、冒険者ギルドに尋ねてみますよ」


「お願いします。氷が出せれば飲み物を冷やすことが出来ますからね」


 そんな話をしながら今日の売上を計算して、総売上を計算する。


「キャロルさんは、計算が早くて助かります」


「計算出来る人って少ないんですか?」


「簡単な計算なら見習いでも出来ますが、キャロルさんのように暗算でやれる者は一人前になった者でも出来るのは少ないでしょうね」


 そうなんだ。まあ、貨幣にもいろいろ種類がある。小銅貨五枚で銅貨一枚。銅貨十枚で大銅貨一枚と、決まっているものもあれば別の国の貨幣も使われたりする。わたしも把握してないので、それぞれの貨幣を分けて計算し、あとはナイセンさんにお任せだ。


「勘定に人手が足りないなら人を雇ってくださいね。勘定当番は必要ですからね」


「ええ。来年には増やそうと話し合っていますよ」


 ローダルさんは本当に拡大しようと考えているのね。まあ、これだけ人気になっていれば拡大しようと思うのは商人として当然の反応か。


 やっとのことで計算が終わる頃にはお客さんたちは帰っており、従業員が集まって夕食となる。


 通いの人たちが帰ったらお風呂だ。


「明日はどうするの?」


「歯ブラシ作りだね。ティナは買い物をお願い」


「わかった。てか、何だか仕事しに帰って来たみたいだな」


 本当ね。でも、こんな日々もまたよし、よ。生きているって感じられるんだからね。

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