第4章

第33話 ハンバーガー

 とりあえず、マイゼンさんとナイセンさんは通いで来てもらうことにした。


 その間、二人にはお母ちゃんの味を覚えてもらったり流れを覚えてもらい、わたしたちが帰って来たら一緒にどんな風に持って行くかを考えたり商売を教えてもらったりすることになった。


 こんなんで儲けになるのかはわからないけど、何事も前段階と準備、そして、ノウハウが大事、ってラノベで読んだことがあるわ。知識で知っていても実際どうななかわからないんだから学ばせていただきましょう。


 ローダルさんもしばらく来るって言うので、馬車を借りて大量の商品を運ぶことにした。


 さすが馬車。押し車の四倍はあるから持って行ける量も四倍。売上も四倍になったわ。


「物量が多いと商売が捗りますね」


「それを理解出来るには下働きを数年しないとわからないものなんだがな」


 そうなんだ。やっぱり基礎学習が足りなかったり、経験して学べってわけことなんだろうか? この世界の人は学ぶのも大変なのね。


 まあ、わたしも学ぶためにお城に行こうとしているんだけどね。


「馬車があるなら温かいものも運べそうですね」


「今度は何をしようって言うんだ?」


「ハンバーガーを売ろうかなと思って」


「ハンバーガー?」


「肉を細かくして焼いたものをパンに挟むものですよ」


「ああ、よくティナが食っているものか。何だろうとは思ってたんだよな」


 それなら訊いてくれたらよかったのに。


「じゃあ、帰りに豚肉を買って帰りますか。夜に作りますよ」


 すべてが四倍になったけど、完売まではいつもの二倍だった。午後の三時くらいに市場に向かい、いつもより多くの豚肉と骨を買った。


「ローダルさんにお金払わなくて本当にいいんですか?」


 いらないとは言ってたけど、これじゃタダ働きだ。ローダルさんの暮らしが成り立たないんじゃないの?


「これは先行投資さ。日帰り宿屋が成功したら王都で開こうと思う。仮に失敗したとしても大損害にはならない。その失敗だって糧となるものさ」


 商人はそう考えるんだ。失敗なんて許されないと思っていたわ。


 家に帰ったら早目に切り上げたおばちゃんたちが集まっており、お風呂に入る順番をおしゃべりしながら待っていた。


 一日中仕事をしていただろうに元気よね。疲れた様子が見て取れないわ。


「的当てもお嬢ちゃんが考えたんだな」


「考えるってほどでもないですよ。子供のお遊びですよ」


 子供のわたしが言うんだから説得力はあると思うわ。


「まあ、あんなに夢中になるとは思ってませんでしたけど」


 おばちゃんでもやる人がいる。教えておいてなんだけど、何が楽しいのかしらね?


「他にも子供のお遊びはあるのか?」


 他に、か。小さい頃はおままごとをしたけど、そんなに体が強くなかったから外での遊びって知らないのよね。


「そうですね。縄跳びなら」


 藁を編んだとき試しにやったけど、縄にしなりや重みがなかったから上手く出来なかったのよね。でも、ティナは軽々やっていたのでどんなものかローダルさんに見せるようお願いした。


「紐ならもっと楽に跳べるんですけどね」


「ちょっとやらしてくれ」


 ひょいひょいと跳ぶティナから藁縄をもらい、見よう見真似で跳んでみるローダルさん。意外と、って言ったら失礼かしら? なかなか運動神経がよろしいじゃないの。


「……い、意外と、体を使うんだな……」


「運動不足の方や子供の体力作りには丁度いいものですよ。お城に行ったらお嬢様にもやってもらおうと思ってました。貴族のお嬢様ってダンスとかするんですよね?」


「そうだな。節目節目に夜会やら舞踏会やらがあるからな。体力がないとお嬢様もやってられないそうだ」


 この世界の貴族も大変なのね。農民の娘に生まれてよかったわ。


「縄跳びか。これを広めても構わないか?」


「構いませんよ。縄で跳ぶだけのものなんですから」


 そのうち誰かが考えるだろうし、そんな高額なものではない。売ったところで大した儲けにもならないでしょうよ。


「売れたらいくらか渡すよ」


「別にいいですよ。本職が儲けてください。わたしは、商人を目指しているわけじゃないので」


 先立つものは必要だけど、お金持ちになりたいわけじゃない。商売に人生を捧げたくないわ。


「欲は持っていたほうがいいぞ。無欲はときに猜疑を生むからな」


「そういうもんなんですか?」


「欲深い者は特にな。無欲な者が一番信じられないって生き物だからな」


「なんだか難しいですね」


 人生の大半をベッドの上で過ごしてたから人のこと、あんまりわかんないのよね。


「その辺は子供なんだな」


「わたしは子供ですよ」


「普通の子供は自分を子供とは言わないものだよ」


 うーん。難しいものね。前世の歳を足したって十六にも満たない。人生経験皆無。子供としか言いようがないわ。


「まあ、体も動かしてお腹も空いたでしょうからハンバーガーを作りますね」


「ああ、そうだったな」


「じゃあ、すぐに作っちゃいますね。ティナ、明日の用意をお願いね」


「わかった」


 さて。ちゃっちゃと作っちゃいますかね。

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