言われてみて初めて気づく
こうしてバートは、劇団が城下を後にしてからも、二週間に一度くらいのペースで旅先からベルトラン家を訪れるようになった。
話自体は最初の二、三回くらいで結婚するまでを伝えたが──ちょうど、悪阻の時期にぶつかって中断したりもした。
あと今までにはない芝居なので、台詞を書き出すのも一からである。しかもエレーヌは、最初からバートに戯曲を書くように勧めた。
「戯曲? 芝居の台本とは、違うんですか?」
「違うわ。台本は舞台化されるのが決定していて、台詞だけが書かれているけれど……戯曲は必ずしも舞台化する訳ではなく、台詞の他にどんな場面かや簡単な行動も書かれているから物語としても成立するの。平民は読み書きが出来ない人も多いけれど、貴族や商人などは違うでしょう?」
シルリーから、彼女のような商人の娘や貴族の娘であれば、読み書きは問題なく出来ると聞いている。
ちなみに最初のお茶会で、エレーヌはバートに敬語を使っていたが、次からは支援者だからとバート本人から敬語をやめるよう頼み込まれた。
一方、バートも敬語は使っているが最初の頃のように探る感じはなくなっている。更にお茶会に対して遠慮もなくなり、サンドイッチだけではなくスコーンもジャムをつけて頬張っている。そして、指についたジャムを舐めて(下品ではなく、妙に可愛く見えるからやはりイケメンは強い)バートはおもむろに口を開いた。
「……確認ですが、物語としてお二人のことが他の貴族の目に触れても良いんですよね?」
「ええ。流石に、名前は変えて欲しいけど」
「それくらいは……あ、ただ一つ、お願いというか提案が」
「何?」
「戯曲ですが、若奥様が書きませんか? 支援されている身としては、いずれは俺も書くつもりですし、完成した戯曲は俺も目を通しますが……完成図が頭にあるのが若奥様だけなので、最初はその方が良いと思うんです」
思いがけないことを言われたが、一方で納得も出来る。戯曲という、今までにない概念を知るのはエレーヌだけなのだ。ただ、初めての妊娠なので不安もある。
「悪阻は多少、治まったけれど……こうしてお腹も膨らんできたし、体調によっては待たせるかもしれない」
「それは当然、考えられますよね」
「あと、平民ならともかく貴族の妻が、金銭的なものや希望を出す以上の支援をしていいかどうか、そもそも判断が出来ないの……主人に、相談してもいいかしら?」
「もちろんです」
そう話を締め括って、今回のエレーヌとバートとのお茶会は終了した。
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