夫から贈られた茶会と芝居が結ぶ縁

「旦那さま、ありがとうございます!」


 観終わると他の観客同様、いや、もっと拍手をしたエレーヌは、アーロンを見てお礼を言った。今はまだ元気だが、もう少しすれば悪阻などで苦しむことになるだろうし、生まれたら生まれたで子育てに忙しくなるだろう。そういう意味でも、胎教に良さそうな美しい舞台を観れて良かったと思う。

 そんなエレーヌに、アーロンがしばしの沈黙の後に口を開く。


「貴族の中では芝居を観て、出ていた役者が気に入ると城に呼び、一緒にお茶や食事をしながら話をするのが流行っているらしい。支援者パトロンがいれば別だが、今回の旅芸人たちにはまだいないらしいから……エレーヌがよければ」


 アーロンの提案に、エレーヌは驚き、目を瞠った。そして次の瞬間、嬉しそうに笑って口を開いた。


「ぜひ、お話したいです!」

「そ、そうか……神の子役の者か? それとも、よみがえ」

「劇作家の方と!」

「り…………は?」

「え?」

「……あー、エレーヌ? 話したいのは神の子役の者か? それとも、よみがえりの青年か? もしかして、両方か?」

「何だか増えてますが、いいえ? 私がお話したいのはこの芝居の、劇作家の方とですっ」


 けれど予想していなかった人物の登場に、アーロンはたまらず聞き返し──そんな彼に首を傾げつつ、エレーヌは元気良く答えたのだった。



 アフタヌーンティーで、キュウリのサンドイッチが出るのが、前世では不思議だった。そして調べて、更にそんなサンドイッチが実際に振る舞われる世界に転生して、エレーヌはその理由を思い知った。


(農場経営をしている領地だからこそ、瑞々しいキュウリが簡単に手に入る……つまりは、貴族の富の証なのよね)


 そんな富の証で作られたサンドイッチを、エレーヌは美味しくいただいた。すると、サンドイッチを用意してくれたシルリーがこっそり得意げな表情かおをしていた。

 一方、お茶会開始の時に無礼講だと伝えておいたので、お茶会に来てくれた男がエレーヌへと話しかけてくる。


「劇作家、と言っても元々が聖書です。我々は、ただそれを解りやすく書き起こし、演じているのみでございます」

「それはそうですが、芝居をされるのはあなた達の劇団だけではないでしょう?」

「もちろんです。昨日の演目も、人気ですからね。他国も含め、あちこちで演じられています。だから我々は、台詞を歌にして演じることにしました」

「英断です! 斬新で素晴らしい演出で、とても引き込まれました!」

「恐縮でございます」


 昨日の舞台の後、エレーヌの希望を伝えると、劇団長が劇作家兼演出家だという答えが返ってきた。そんな訳で今、エレーヌの前には四十歳前後の、役者並みに華も色気もある男が──劇団長である、バートがいる。


(もしかしたら、元々は本当に役者だったかも)


 日の光で金髪にも見える、明るい金茶の髪と同じ色の瞳。声も大きく張り上げている訳ではないがよく通り、耳に心地好く響いた。

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