演技と真実が重なる
(いや、本当に誰だよ、コイツ。)
再び、内心でツッコミを入れるエレーヌの前で、アーロンとブランシェの言い合いは続く。
「支える? 男が女を? 仮にも騎士なら、せめて守ると言いなさい! 女を前に出して、男が後ろになるなんてどういうこと!?」
「どういうも何も、私はこういう人間です。女々しい? 幻滅しましたか? それなら、速やかに殿下の国へとお戻り下さい」
「私は! 国には戻らないし、何なら今すぐ嫁いでもいいのっ」
アーロンの、開き直り過ぎてもはや別人なところは、今回が乗り切れたらゆっくり話し合おうと思う。
今、ここでエレーヌが気になるのはブランシェの方だ。
最初は単に、結婚相手として見初めたアーロンに平民の自分がくっついていたので、邪魔者を排除しようとしたのだと思った。しかし、いくら許せなくてもああして当のアーロンにまで食ってかかっては本末転倒である。
(周りの人も、引いてるわよね。あのお姫さま、止まれなくもなってるのかもだけど、何か焦ってるともいうか……んっ?)
そこまで考えて、エレーヌはふと引っかかった。
この戯曲の舞台である中世や、もう少し未来の近世では男女共に美しくある為に有害な、いや、現代の感覚だと猛毒を使っていた。
有名なのは白粉だが、怒って赤くなっているブランシェを見ている限り違うようだ。そこで、もう一つの可能性に思い至る。
(口紅……あと、あのドレスもだったら……染料。近世だと科学者がヒ素から鮮やかな緑を生み出して、服や塗装に使われたけど、中世で……赤だったら……)
色に関する歴史を思い返して、文献で知識を得ただけの久美もだが、現世のエレーヌ自身もまた気づいた。言い合う二人、いや、ブランシェへと近づいていった。
殴りでもするのかと宴の場がざわついたところ、エレーヌはブランシェの前で跪き、ドレスの裾を手に取って言った。
「……このドレスと染料と、口紅は同じ鉱石が使われてますか?」
「えっ? ええ……」
「それらには、毒が入ってます」
「「「えっ!?」」」
ブランシェだけではなく、宴に居合わせた一同から驚きの声が上がる。
「エレーヌ!」
「あ、ありがとうございます」
一方、アーロンはエレーヌに駆け寄ると立ち上がらせながら手を取り、彼女が渡していたハンカチで拭ってくれた。それにお礼を言って、エレーヌは再びブランシェに向き直って言った。
「その口紅と、あとドレスは以前から?」
「い、いえ……一年くらい前に、異国の商人が勧めてきて……この鮮やかな赤が、肌の白さと美しさを引き立てると、大流行して」
「この鮮やかな赤の元である、
「っ!?」
エレーヌの言葉に、思い当たる節があったらしくブランシェが青ざめた。
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