帰宅

 その画面を見た瞬間、みんな察したと思う。


 これは。確実に。


 地下空間に誰かがいる。

 皆は無言で板を戻し、車に乗り込んだ。

 全員が乗ったらすぐに出発した。

 皆、ここから逃げたいのだ。

 あんな恐怖の地下へと続く階段から。


 家に着いた。帰宅が完了したが、空気はこの世の終わりみたいなものだ。

 皆無言で各々行動していた。

 僕は真っ先に友達に連絡を取った。


『なあ、ちょっと信じれない話かもしれないことしていい?』

『なんだ? していいよ。聞いてやる』

 すぐに返信が来た。

『母親、妹が行方不明になった。誘拐かもしれない。森の中にある板の下にとりこまれていった。信じれるか?』

『んなわけ。そんな冷静に連絡できないだろう。信じれないな』

『冷静じゃない。信じてくれ。本当なんだ』

『証明してみろよ』

 ビデオ通話で声を聴かせることにした。


〔自分が通話を開始しました。〕


「本当なんだ信じてくれ」

 僕は、震える声で伝えた。ひきつった顔もカメラを通して見えるようにした。

 すると彼は言った。

「マジじゃん。ごめんな疑って。っていうかマジなら結構やばいじゃん」

「結構どころじゃない」

「今から家いっていいか?」

「無理。自分も家族もこの世の終わりみたいになってるから」

「分かった。悲しいことだけど、今はなるべく板(?)に近づくなよ」

「うん。また今度ね」

「辛くなったらまた相談しろよ。いつでも乗ってやる」


〔自分が通話を終了しました。〕


 スマホを閉じた。リビングに戻ると、待ってましたと言わんばかりに一人分開けてみんな座っていた。僕はそこに腰を下ろした。


「みんな、ちょっといいか?」

 父が話した。

「うん」

 僕は答える。

「俺、森に行ってくる。二人が心配なんだ」

「何言って⁈ お父さんも誘拐されちゃうじゃん」

「妻が心配なんだ。娘もね。わかるだろ、好きな人がひどい目に合ってるんだぞ」

「絶対に帰ってきてよね」

「大丈夫だ。二人を連れて帰ってくるよ」

だからね」

 僕は強く言った。もう悲劇を繰り返さないでほしい。

 兄貴、姉貴、僕だけが取り残された。無事かどうかはわからない。

 僕はスマホを見つめ、連絡がこないかをずっと見ていることにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る