行方不明の板の中
塔架 絵富
行方不明
七月二十一日、今日は海の日ということで、家族で海に遊びに行くことになりました。
家族構成の母、父、兄、姉、僕、妹、、の
この六人で海を満喫して遊びまくりました。
「おい弟、こっちにこい」
「なんだよ兄貴」
いつも話しかけてくるとロクなことがない兄貴なので、イラつきを隠さないような言い方で返答する。
「こっからあっちまで、泳いで競争だ。負けたらジュースおごりな」
「待ってよ。僕が泳ぐの苦手だとわかってるくせに」
「ジュースが飲みたかったからな、弟のお前を利用してやったぜ」
めっちゃうざかった。なんなんあいつ。
でもせっかく勝負するなら(勝てないだろうけど)、全力で取り掛かってやる。
そう思うと謎に力が湧いてきて、いつもより心なしか速く泳げている気がする。勝てる気がしてくるな――なんてね……。
無理でした。うん、だろうな。
「じゃあ弟、ジュース買ってこい」
「分かったよ」
負けてしまったので仕方なく買ってくることにした。本当はこんな兄貴のために行動するなんて嫌だけど、いつかこの行いが自分に返ってくると信じてやっておく。
そうして自販機に向かっていると母に話しかけられた。
「ジュース買いに行ってるの?」
「うん。兄貴に買って来いって言われて」
「最低だね。飲みたいなら言ってくれば買ったのにね。お金あげるから自分の分も買いなよ」
自分の息子なのに最低とか言ってて笑いかけたけど、実際最低だししゃあないか。
「ありがとう、お母さん」
そう言って自販機を目指して歩いてゆく。
小銭を入れて、欲しい飲み物のボタンを押し、商品が機械から吐き出され、それを取り出す。
今思えば昔こんなことに感動してたのが懐かしいな。
そう思いつつ自分と兄貴の分を買ったので、みんなのところに戻ることにした。
「兄貴、買ってきたぞ」
「おう」
二人でボトルのキャップを取り、喉の中にジュースを流し込んでゆく。
しばらくすると、兄貴が話しかけてきた。
「なあ弟、母さん見てねえか? お前が買いに行ったときにそっちに行ってから帰ってきてないんだが」
「えっ? 知らない。そっちに戻ったのかと思ったけど、戻ってないの?」
「うん。どこにいるんだろうな」
「お母さんがいないの?」
妹が話しかけてきた。
「そうだね。どこに行ったか知ってる?」
「いや、特に」
妹もわかんないならとりあえず他の人にも訊くか。
「姉貴、お父さん、お母さん何処にいるか知ってる?」
「知らん」
「分からないよ」
二人もどこに行ったか分からないらしい。本当にどこに行ったんだ? ……あ、連絡すればいいじゃん。
そう思ってスマホでお母さんの連絡先を開くと、新着のメッセージがあった。
『森の中にある板。失踪。自分の意思じゃない。』
一瞬理解に苦しんだ。何を言っているのか全く見当がつかないからだ。しかし母さんが今ここにおらず、周りも知らないという状況を振り返ってみると、ある結論にたどり着く。その瞬間、体中が震えだした。
失踪? 自分の意思じゃない? 誰かに操作されたメッセージなのか? 誘拐? 何のために大人を?
森の中に行かなければならないという使命が心の中に生まれた。
「弟、大丈夫か? 震えてるぞ」
「兄貴、これを見ろ」
僕はスマホの画面を突き付けた――。
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