土塗れの女

 俺の部屋のベランダからは墓地が見える。

 ある日、ベランダに出てみると友人がアパートの前の道を歩いていた。

 俺は友人に向かって手を振った。

 ふと墓地の方に目を向けると、全身土塗れの女が、俺に向かって手を振っていた。

 目が合うと女は突然笑い出し、俺に視線を向けたまま俺のアパートへ向かって走り出した。

 俺はパニックになり、部屋のカギを閉めた。

 数秒後には、ガンガンガン、とけたたましくドアを叩く音が鳴り響いた。

「うーあータスケテ目が合ったタスケうめられタ」

 そんな声まで聞こえてきた。

 しばらく震えていたが、突然ドアを叩く音が止んだ。

「近くに寄ったから来たぞ」

 友人の声が聞こえてきた。

 恐る恐るドアを開けると、友人は突然表情を強張らせた。

「お前の部屋きったねぇな。土塗れだぞ」

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