第42話
初めて会った時の彼の印象は、何かいけすかない奴、だった。
まひろは小さい頃より神童と呼ばれるほど一目置かれており、周りの大人たちは毎日のように媚び諂うほどだった。
そんなだから、まひろは自分が関わる人間は全員が喜ぶものだと思っていた。
ある日、砂場で一人で遊んでいる男の子を見つけた。
寂しそうな子。
可哀想だから、特別に私が話しかけてやろう。
「こんにちは」
少年に反応はなかった。
あれ、聞こえなかったのかな。
「こんにちは!」
数度呼び掛けて、ようやく少年の視線がまひろに向けられた。
「あなた、とてもつまらなそうな顔をしてるわね。良ければ私があそんであげますよ」
「いい」
まひろの提案に、正念場ぶっきらぼうに答えると、再び砂遊びに没頭し始めた。
無視はまひろにとって初めての経験て、何が起きたのか分からなかった。
いや、そんなはずはない。
何とか、この男を反応させてやる。
この日以来、まひろはその少年、世良由希の事が気になるようになってしまったのだ。
まひろの懸命なアピールの結果、無事に二人は仲良くなっていった。
一緒に砂遊びをして遊んだ。
小学校にさで違うクラスになって悲しんだ。
同級生に仲を揶揄われた。
ある日、プレゼントをされた。
ペアの指輪だった。
「なんで?」
「別に、いつも僕と遊んでくれるから」
「そう、なんだ」
「僕が、まひろを守るからさ。だから、まひろもこれからずっと僕と一緒にいてよ」
いつものぶっきらぼうな顔が、その日は紅くなっているのを見て、まひろもつられて頬が熱くなった。
それから、二人で毎日指輪をつけるようになった。
流石に結婚指輪と同じ指につける勇気はなくて、代わりに右手につけていた。
また同級生に揶揄われたが、気にならなかった。
毎日が楽しかった。
ある日、この世に超能力というものがあることを聞いた。
才気あふれる人間がレリックと呼ばれる物体に触れることで、その能力を習得するのだという。
自分は必ず、超能力が使えると、まひろは自身があった。
だから、レリック探しに由希を誘うことにしあ。
その能力を持つ人間は、その能力を欲しがる人間に狙われるらしい。
何を大袈裟な。
超能力が使えるなら、どんな奴に狙われようと怖くない。
とはいえ結局のところ、由希と一緒にいる口実があれば何でもよかったわけだが。
ネットで手に入れた情報をもとに廃墟を訪れると、口が裂けた男に襲われた。
自分の迂闊さのせいで由希を危険に巻き込んでしまった。
そして、さらに彼をオーナーという過酷な運命を背負わせてしまった。
だからこそ、自らもレリックに触れ、光の中で決意をした。
自分は彼を元の平穏を取り戻してあげなければいけないのだ。
それはきっと一筋縄には行かない。
闇の世界も含めて、どんな手段を使ってでも、やり遂げなければいけない。
それでも、由希と一緒にいられないのも辛かった。
自分の能力はあらゆるものを「複製」する能力のようだ。
だから、用意した。
自分の分身として、彼を見守る存在を。
そいつを通して共有する由希との思い出を糧に、孤独に暗躍することを選んだ。
由希を治すためには、同じく超能力を使うことを考えた。様々なオーナーを探すために、CSという組織に所属した。
元が優秀なまひろは、簡単に上層部に食い込み、気を見てトップを殺害し、指揮する側になった。
ネットワークを駆使して、様々なオーナーの能力を精査し、由希を元に戻すための方法を模索した。
危ない橋をわたり、口封じのためにオーナーを殺害しなければならないこともあった。
気づけば、人を殺めることに抵抗がなくなっていることに気付いた。
それでも、由希を助けるために、心を無にして続けた。
次第に顔を隠した方が、色々やりやすいことに気付き、黒いローブを纏う様になった。
闇に生きる自分には似合っていると思った。
孤独な戦いを続けていたある日、まひろは一人の女の子に出会った。
彼女の名前は遊佐瑠香といった。
オーナーであることがわかったが、由希を助けられる能力ではなかったから、すぐに手を引いた。
しかし、なぜか彼女の方からコンタクトを取ってくるようになった。
「だって、私の事を気にかけてくれる人なんて初めてだったから」
別に気にかけたわけではない。
ただ、目的のために必要だっただけだ。
その事を告げても、瑠夏はあっけらかんと笑った。
「別に関係ないよ?だったほら、私バカだし」
その日以来、ルカと一緒にいる事が多くなり、遂にはCSに入れることになった。
誰かと一緒にいる感覚は久しぶりで、悪くなかった。
唐突に、瑠夏が尋ねてきた。
「ねえねえ、リーダーの目的ってなあに?」
「別に関係ないでしょ。いいから、言われた通りにして」
「ええ、だってえ、気になるもん」
「ってかさあ、リーダーって私と同じくらいの年だよね」
「……関係ないでしょ」
「図星だ。ねえねえ、そんな暑苦しいローブとっちゃいなよ」
「これは、任務に必要なの」
「えー、つまんない!」
ずかずかと入り込んでくる瑠香は、ついに爆弾発言をした。
「ねえねえ、リーダーって好きな人いる?」
「ぶっ!な、なにそれ」
「あ、いるんだああ。ねえ、どんな人?」
わたわたするまひろに構わず、瑠夏は詮索してきた。
「もう好きって言ったの?」
瑠香にとっては何気ない質問だったのだろうが、まひろの胸に小さな痛みが走った。
それは、まひろが心の隅で後悔していることだったからだ。
由希に、伝えたいことがあった。
「だめだよ、ちゃんと言わなきゃ……女の子は、自分の想いに素直になるのが一番なんだ」
「事情があるの!」
「あー、はいはい。そうですね」
「もう!ちゃんと聞いてよ」
いわゆる恋バナというやつをして、由希への思いが強くなった。
早く、由希を治せる能力を持ったオーナーを探さないと。
瑠香と会ってしばらく経ちから、彼女が鼻息荒げに言った。
「ねえ、リーダー聞いてよ!好きな人ができたの!」
「へえ、どんな人?」
このころには、まひろはすっかり瑠香とは普通の女友達のような感覚で付き合う様になっていた。
「あのね、私が不良に絡まれているところを助けてくれたんだよ」
「……瑠香はオーナーなんだから、助けてもらう必要なんてなかったんじゃ」
「そんなことないよ。しかもね、その人の事付け回して、もう一回話したんだ」
「ストーカーかよ」
「その時も怪我をしそうになった私を助けてくれたの!ああ、かっこよかったなあ」
「はいはい、ごちそうさま」
「好きって言ったら、戸惑ってたけどね」
「ええ、でも会ってまだ数回でしょ」
「これくらい、普通っしょ」
「絶対普通じゃない!」
そういいつつも、まひろも心がときめくのを感じた。
そして、由希の事を思い出した。
まひろを守ると約束してくれた、幼馴染の言葉。
それこそが道しるべだった。
分身を通して、由希の事は見ていた。
しかしそれでも、距離を感じるばかりだった。
一刻も早く、由希と直に触れ合いたい。
思いは募るばかりだった。
その思いが、大きくゆるがされる自体が起きた。
分身が由希と親しくし始めたのだ。
そいつを通して、由希の事が好きという感情が伝わってくる。
苦難を通じて、由希と心を通わして行くのを感じた。
しかし、まひろは耐えようと必死に努力した。
今は、忍耐の時だ。
いつか由希を元に戻して、一緒になれる日だけを夢見て、オーナー探しに邁進した。
しかし、すぐにそれも終わりを告げた。
由希が、自分にくれた指輪を、あろうことか捨てたのだ。
そして、分身に対してこういった。
俺が、まひろを守るよ。
彼の言った、まひろは自分を差しているのではない。
分身に対して、行ったものだ。
それを理解した瞬間、まひろの世界が崩壊した。
出過ぎた分身には消えてもらわなければいけなくなった。
視界を共有してるのだから、タイミングは直ぐに訪れた。
そして遂に追いつめた……はずだった。
由希は分身の肩を持った。
加えてアイギスという敵対組織のリーダー、さらには瑠香まで自分の前に立ちはだかった。
目の前には、愛する少年が拳を振りかぶっていた。
彼の能力は破壊。
5年前、自分の行いが授けた呪いの能力。
彼の能力で、私のレジストは破壊されて、後ろに構えている分身が、私に銃弾を撃ち込むのだろう。
罪だった。
一体どうして、こんなことになってしまったんだろう。
どこで、道を間違えたんだろう。
わからない。
自分はただ、由希の事を思って――
不意に、視界の端に瑠香の視線を感じた。
『女の子は、素直になるのが一番なんだ』
いつか瑠香に言われた言葉が蘇り、そして理解した。
ああ、そうか。
そんな簡単なことだったんだ。
生まれてから、なんでも自分は出来ると思っていた。
でも、そんな簡単なことすらできていなかった。
瑠香にできて、私にできないこと。
周りの女の子たちが出来て、私にできないこと。
分身ができて、私が出来ないこと。
オーナーを探すとか、由希を助けるとかそんな小難しいことの以前に私は、一番大事なことを伝えていなかったんだ。
好き。
ただ、それを伝えるだけの事だったんだ――
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