他愛もない話
「今日の朝は何を食べたんですか?」
「今日の朝っていうか、今も朝だと思うけど、串焼きだな」
「串焼きですか。美味しそうですね」
俺は馬車の中にいるフィオラと会話をしながら、進んでいた。
ちなみに、ずっとこんな感じの他愛もない話ばっかりだ。
いや、俺としては嬉しいけどな? 変な事を聞かれるよりはずっとマシだ。
「昨日はわたくし達と別れた後は何をしていたのですか?」
「普通に風呂に入って飯を食って寝た」
「いいですね」
何がだよ。いや、マジで何がいいんだよ。
「わたくしはあれからあなた達と別れた後は教会を訪ねてきた人の相手をし、怪我人の治療だったりをしましたよ」
「それは、凄いな。その怪我人も、感謝してるだろうな」
「……そう、だったらいいですね」
? 金は払ってるだろうが、感謝はしてるだろう。聖女に回ってくる治療依頼なんて、普通の治癒士には治せないものばかりだろうしな。
「そりゃ感謝はしてるだろう。少なくとも俺が治される立場だったら絶対感謝する」
「……」
……ん? 俺、思ったことを言っただけなんだけど、なんか無視されてないか? いや、別にいいけどさ。
話をしたくないならしたくないで余計な事を聞かれる心配が無くなるし。
「……アリーシャ様やヘレナ様と出会った時はどのような感じだったのですか? 二人から話は聞いていますが、あなたからも聞いてみたかったので」
「ーーッ」
俺は思わず息を飲んだ。
やばい、ついに来てしまった。……最悪な質問が。
「いや、まぁ……普通、では無いけど、普通の出会いだったと思うぞ?」
そして、緊張しながらも俺はそう答えた。
……大丈夫、だよな。変な嘘はついてないはずだ。
「詳しい話を聞いてみたいんです」
「……それは、嫌、だな」
このままじゃ一生このことを聞いてくる可能性があると思った俺は、意を決して正直にそう言った。
「やはり、恥ずかしいのですか?」
「ぇ?」
すると、フィオラはいきなりそんな的はずれなことを聞いてきたから、思わず声が漏れてしまったけど、幸いなことに俺の声は馬車の中まで聞こえてなかったみたいで、それ以上は何も言わずに黙り込んだ。
このまま勝手に勘違いしてくれ。そうすれば、俺が嘘を言ってることにならないし、目も反応しないだろ。
……と言うか、今更だけど、フィオラの目ってそいつのことを見てなくても嘘だって分かるものなのか? ……馬車の中と外で話してるんだし、俺のことは見えてないと思うんだけどな。
……いや、でも、フィオラの反応的に俺が嘘を言ってるのかどうかを理解してると思うし、声だけでも分かるんだろうな。
「そうですか。……でしたら、何か好きな食べ物とかはありますか?」
そうして何も言わずに黙っていると、フィオラは何かを納得したのか、そう言ってまた別の質問をしてきた。
……まぁ、さっきみたいな事を聞かれるよりはこういう当たり障りのないことを無限に聞かれる方がマシか。
そう思って、それからも俺はフィオラからの質問に答え続けた。
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