絶好のチャンスってことか!?
やばい。水晶に手をかざしたら俺の犯罪がバレるし、かざさなくても何かしらの罪を犯したことがあるんじゃないのか? と疑われる。……マジで詰んで無いか?
……こんなことなら、さっきの頭のおかしい受付嬢と話してた方がまだ良かったかもしれない。
「あの、手、かざさないんですか?」
「……うわっ」
受付嬢に訝しげな視線を向けられながらそう聞かれた俺は、どうすればいいかを必死に考えていると、急に後ろから服を引っ張られて、そんな声を上げてしまった。
「あれと決闘することになった。いいよね?」
何かと思って後ろを振り向くと、リアが俺の服を引っ張ってきてて、目が合うと、そう聞いてきた。
どうせ結果は見えてるんだし、好きにしたらいいだろ。と言うか、なんでわざわざ俺に聞くんだ。
「あぁ、好きにしてくれ」
「分かった」
リアに対して頷いて、またどうすればいいかを考え出そうとしていたんだが、何故かリアに引っ張られて、俺も決闘をする場所? に連れていかれた。……野次馬を引き連れて。
いや、なんで俺まで連れていくんだよ。……まぁ、意味は分からないけど、助かったかと聞かれれば、助かったけどさ。
そう思っていると、さっきの俺に絡んできた男が俺の事を睨みつけてきながら、真ん中の方に移動して行った。
なんで俺を睨んでるんだよ。相手はリアだろ。リアの方を睨めよ。
「……? リア、行かないのか?」
そう思っていると、なかなかリアが俺の隣から動かないからそう聞くと、リアは首を傾げながら言ってきた。
「? なんで私?」
いや、逆になんでリアじゃないんだよ。
リアじゃないのなら、誰が戦うっていうんだ。あいつ、言動や性格はともかくとして、Aランク冒険者なんだろ? リア以外じゃ勝てるかすら怪しい相手だぞ。リアがやらずに、誰がやるっていうんだ。
「戦うのはあなたでしょ?」
「…………は?」
いや、え? マジで何を言ってるんだ? 本気で理解できないんだけど。
「いや、戦うのはリアだろ?」
「……? さっき決闘することになったって言った時、好きにしてくれって言ってたじゃん」
……決闘することになった、ってもしかして、俺があいつと決闘することになった、ってことだったのか!? いや、無理だぞ? 俺、勝てないぞ? ……そもそも、なんでリアは俺にあいつと戦わせようとしてるんだよ! 監視という名目ではあるけど、一応護衛の役割もあったはずだろ!?
「違う。言葉が足りなさ過ぎる。俺はリアが戦うことになったんだと思って、好きにしたらいいって言ったんだよ」
「そうなの?」
「そうだよ! 一応言っとくが、俺は戦わないぞ?」
さっき手を引っ張られてここに連れて来られた時はあの水晶から自然に離れられて、リアに感謝していたんだけど、一気にそんな気持ちは無くなった。
ちゃんと主語をつけて喋ってくれ。頼むから。
「でも、もうあなたが相手になるってあれに言っちゃったよ?」
「……俺に勝てると思うのか?」
「勝てると思ったから、受けたんだけど。……あなたがバザルト様の家から逃げようとした時、私の最初の一撃避けてたし、普通に強いでしょ?」
違う。あの攻撃を避けられたのはマジでたまたまだ。まぐれなんだよ。まぐれ。
リアは強いんだから、俺の実力なんて何となく分かるだろ。なんでそんな過大評価されてるんだよ、俺。
「おい! いつまでくっちゃべってんだてめぇ! さっさとこっちに来やがれ! 始めるぞ!」
「……リア、バトンタッチ」
俺があいつと戦ったら絶対負けるから、リアの背中を押しながら、俺はそう言った。
「え、別にいいけど、戦わないの? 気分悪い?」
……さっきも思ったけど、本当になんでリアの中で俺はそんなに強いと思われてるんだよ。
確かに、さっきの水晶の件と相まって、気分は悪いけど、そんなの関係なく俺はあいつに勝てないからな?
「あぁ、だから任せた」
「うん。分かった。任せて」
そう思いながらも、なんかあんな奴に馬鹿正直に勝てないって言うのが恥ずかしくて、俺は適当に頷きながら、そう言った。
すると、リアは何故か嬉しそうに頷いて、あいつの元に向かっていった。
そんなにあいつをボコボコにするのが楽しみなのか? ……別にいいけどさ。
「おいおい! また女を盾にして、お前は高みの見物かよ!」
「うるさい。お前の相手は私」
後ろで二人が何かを言い合ってるのを聞きながら、俺は野次馬たちの間を通り抜けて、こっそりとギルドを出ることにした。……このままここにいたら、結局あの水晶に手をかざさなきゃならないからな。……もう、冒険者になるのは諦めよう。あれがある限り、俺は冒険者になれない。
……野次馬の間を通り抜ける時「女を見捨てるなんて男の風上にもおけねぇな」とか「クズだな」だったりと、色々と悪口を言われたけど、こういうのは気にしたら負けだし、気にせずに野次馬たちの間を通り抜けた。
よし、こっからは気配を消して、ギルドから出るか。
実力があるヤツらなら普通に気がつくけど、受付嬢レベルの奴らなら絶対に気がつかないだろうしな。
そう思って、俺はそのまま気配を消しながら、ギルドを出た。
何人かこっちを見てきたやつはいたけど、やっぱり受付嬢には気が付かれなかった。
「はぁ」
ギルドを出てすぐ、思わずそんなため息をついた。
せっかく冒険者になって、怪しまれることなくここから逃げられると思ったのにな。
…………あれ? 今、隣にリアは居ないよな? つまり、監視がいないってこと、だよな。
しかもその監視役のリアは今、あの馬鹿と決闘をしている。……つまり、逃げるには絶好のチャンスってことか!?
そう理解した瞬間、俺は街の外に向かって走り出した。
気配を消す意味なんてない。リアなら、俺が気配をどれだけ消したところで、余裕で察知してくるだろうから、気配を消すことなんて考えずに、全力疾走だ。
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