借金苦の両親を助けるために女子高に転校した件

葉っぱふみフミ

第一章 葵との再会

第1話 プロローグ

 先生が先月行われた模試の結果を出席番号順に返し始めた。

 結果を受け取った生徒が、一喜一憂して教室の中が騒がしくなり始めた。


 上園葵は先生から成績表を受け取ると、すぐに総合成績の欄に視線を移した。

 「合計 789点/800点、順位1位」とあるのを見て、みんなにばれないよう軽くガッツポーズをした。


「上園さん、おめでとう。全国一位よ」


 先生が言葉に続いて、クラスのみんなが「おめでとう」「すごい」などの誉め言葉を連呼した。

 内心は一位をとった喜びで溢れているが、それを表に出すことなく、当然といった表情で席に戻った。


「葵、全国一位なんてすごいね」


 席に座るとすぐに隣の席に座っている仲の良い右田茜が、小声で褒めてくれた。


「この前2位で悔しかったから、ちょっと頑張ってみた」


 全国2位になった前回の模試の後、1位を取るために親に頼んで家庭教師をつけてもらい、この1か月睡眠時間を減らして必死で勉強してきた。

 そのせいで肌が荒れ始めてきているが、これでようやくこの生活ともおさらばできる。


 学校が終わり校門前に迎えに来ていたベンツに乗り込むと、運転手の黒沢に祖父のもとへと行くように告げた。

 オフィスビルが立ち並ぶオフィス街でも、一段と目をひくガラス張りの大きなビルの地下駐車場に入り、専用エレベータで最上階まで上がる。


「馬鹿者が!お前はなにをしてたんだ!」


 エレベータを降りると、祖父の罵声が会長室の外まで聞こえていた。


「もう、いい!さっさと出ていけ」


 会長室のドアが開き、しょんぼりしている父親の姿が見えた。


「葵、きてたんだ」

「模試で全国一位になったんだ、それをおじいちゃんに報告しようと思って」

「そうか、すごいな」


 娘の快挙に喜ぶ余裕もなく、肩を落とした父はさみしそうに会長室隣の社長室へと入っていった。

 父親と入れ替わりに会長室に入り、不機嫌そうな表情の祖父に抱き着きながら成績表を見せた。


「おじいちゃん、見てみて、1位よ、すごいでしょ」

「お~葵、それはすごいな。なにかおやつ食べるか?」


 先ほどまでの不機嫌な表情はもうなく、変わって目じりが下がりだらしない表情になっている。


「う~ん、そうだな。富士屋のイチゴパフェが食べたいかな」

「黒沢、イチゴパフェと儂にはチーズケーキを」

「かしこまりました」


 黒沢が部屋を出て行った。祖父はやりかけの仕事を終わらすと自分のデスクから、来客用のソファの方へとやってきた。

 自動車、精密機械、物流、飲食業と幅広く事業展開をする上園グループの会長である祖父は仕事には厳しいが、孫である私には甘い。


「お父さん、しょんぼりしてたけど、なにかあったの?」


 黒沢がテイクアウトしてきたイチゴパフェを口に運びながら聞いた。


「あいつに、任せておった中古車販売事業で強引で違法な売り込みが週刊誌に報じられてな。あいつが無茶な数字目標を設定するから、現場が振り回されてそんなことになるんだ」


 憤慨した祖父はコーヒーを飲み、苦々しい表情となっている。一人娘の入り婿である父を、祖父は普段からよく思っていない。


「早く葵が大きくなって、あいつの跡を継いでほしいよ」


 葵の全国一位の成績表をもう一度みながら、祖父はつぶやいた。


「ねえ、おじいちゃん。前に全国一位になったら、なんでも買ってあげるって言ってたよね」

「そうだった。何が欲しい?別荘か?クルージング船か?」

「そんなのいらないよ。で、お願いなんだけど、この会社なんだけど助けてやってくれない?」


 そう言いながら、「下野マテリアルズ」と書かれたメモを祖父へと渡した。


「聞いたことないな。黒沢、調べてくれ」

「かしこまりました」


 いったん部屋を出た黒沢は、イチゴパフェを食べ終わるまでに資料を携えて戻ってきた。


「どれどれ、金属加工を専門としてで従業員4人、売上高1億円。平均的な町工場だな。現在、資金繰りに困窮していて倒産の危機か。この会社がどうした?」

「友達の会社なの、困っているみたいだから助けてあげたくて」

「葵は優しいの」


 それから祖父は方々に電話をかけ、銀行から追加融資を受けられるようにして、グループ企業から下野マテリアルズに発注があるように手配してくれた。


「おじいちゃん、ありがとう」


 祖父に抱き着き頬をすり合わせた。祖父に頭を撫でられながら、準備の第一段階終了と心の中でつぶやいた。


 会社から自宅に戻る社内で、スマホを取り出して通話を始めた。


「もしもし、鮫島さん。例のものできた?そうなの?じゃ、明日今から言うところに持ってきてもらっていい?」


 松丸デパートの上園家担当の外商である鮫島さんは仕事が早い。これで、第二段階終了。


 自宅に戻ると、母にも成績表を見せた。


「葵、すごいわね」

「ねえ、ママ。あの件、もう一度お願いしてみて」

「しょうがないわね」


 母はスマホを取り出し、葵の通う高校の理事長と通話を始めた。


「例の件なんですけど、どうにかならないですか?えっ、前例がないから難しい?何でも最初のケースは前例がないものでしょ。ところで、葵に聞いたけど吹奏楽部が使っている楽器、古くなってきてるらしいじゃない。どう?例の件OKしてくれるなら、うちの方から一式寄付するけど?それでOK?さすが理事長、ありがとう」


 これで準備が整った。あとは明日夕貴のところに行くだけだ。楽しみで、今からワクワクが留まらない。

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