第12話 作戦立案

翌週の土曜日の夜、再び別荘に集合する。先週と同じく、姫と護衛の女が1人、待っていた。

「ローラさん、調査結果はどうでした?」

「はい…… グレース王女のお話の通りでした。警察や諜報部としてもエックスの出所としてフールー家を疑っているようですが大物すぎて詳細の調査ができない、という状況になっているようです」

「まあ大物中の大物ですからね。間違って捜査が空振りに終ろうものになったらどれだけの上層部の首がとぶことになるか」


「さて、ランスさん、お話は受けていただけますか?」

「ああ、問題ない。自然死に見せかけてアルを殺す、だったな?」

「はい。そうです。殺害方法はお任せします」

「了解した。こちらでの検討に入る」

「ありがとうございます。 それでは報酬の方をお支払いしておきますね。成功報酬はもちろん結果が確認できてからです」

 グレースはニコリとした表情で袋をシェリーに手渡す。


「皆様なら受けてくれると信じていましたが、助かりました。あまりにも難易度が高く、そもそも依頼を受けてくれそうなのが皆様しか思いつかなかったんですよね。断られたらどうしようかと思っていましたよ」

「…… 断ったら諦めていたのか?」

「そうですよ? 私にだって断られたら諦めて帰るくらいの常識はありますが」

 首を傾げた様子で話すグレース。見た目だけであれば可愛らしい女性なのだが…… 底が見えないという点を除けば。


「……わかった。とりあえず注意点はあるか?」

「そうですね。アルの護衛は多数いますが、そのリーダーはジェイクという有名な者です。王子の護衛経験もありまして、非常に強いことで有名でした。移動速度及び攻撃速度を加速させる能力があるようです。間違っても戦闘にならないようお気をつけください」

「それほど強かったのですか?」

「第1王子の護衛を1人で担当していた、といえばその強さはお分かりいただけますでしょうか?」



 数日後の夜、チームでの打ち合わせの日。シェリーが作戦を説明する日だ。

「さて、では今回の計画を話させていただきます。まず、ターゲットはフールー家の長男、アル。似顔絵をお配りしますね」

 配られた似顔絵は丸々として朗らかそうな男性だった。

「思った感じと違うね」

 皆の感想を代表して口に出すのはリサ。

「ええ、ただ覚えやすい見た目でありがたいです。この人を自然死に見せかけて殺害し、バレないように撤退する、というのが今回の目標になります」


「ローラの情報によると、近々国外の麻薬組織「シンリーア」とアルが取引を行うようです。アルはエックスを、シンリーアは金銭をという形で取引は行われます。国外への販路拡大を目指した取り組みのようですね。シンリーアは複数国にまたがる大きな組織ですので、ある自らが対応するようです。その取引でシンリーアになりすましアルに接近、殺害します」

「取引の日時や場所はわかっているのか?」

「大まかな日時はわかっています。また、シンリーアからアルに宛てた手紙を確認したところ取引を行うのは男女2人組、似顔絵も同封されていたので模写しておきました」

 そう言って新しい似顔絵が配られる。男は傭兵風、女は女優のような見た目をしている。

「なるほど。この2人になりすましてアルに接近するということだな?」


「はい、似顔絵が同封されているということはお互い初対面、声や身長などはいくらでも誤魔化しが効くでしょう。後は隙を見てグラスに毒物を混入、遅効性の毒で心臓発作に見せかけて殺害します」


「毒物に関してはアテがあるのか?」

「はい、いつものようにトリッシュに相談し、遅効性で死体に毒物の特徴が出にくいものを依頼済です」

 トリッシュはヨスバ御用達の武器商人である。石投げ機から毒物まで、あらゆる武器を揃えることができるので、懇意にしている。


「わかった。参加メンバーは?」

「男女二人組ですので、ランス様とリサで良いかと。ローラはシンリーアの2人組を確保した際に尋問をお願いします。エフレンと私はトラブル時の支援要員ですね。この形で問題ないかと」

「わかった、それで行こう。何か質問があるメンバーはいるか?」

「なりすましが向こうにバレた場合はどうするの?」

「戦闘をできるだけ回避して逃走するようにしてください。下手に護衛を殺してしまい、警戒レベルを高めるリスクは避けた方が良さそうです。アルはかなりの小心者だと聞きます」

「なんとか逃げ出せた、という感じにするということね。了解」


「尋問では何を聞き出せば良いのでしょう?」

「とにかく全てです。ランス様とリサが人格をコピーできるようにしてください。そして、1番大事なのは集合場所と日時です。これについては手紙に書かれていませんでした。必ず聞き出すようにお願いします。最悪殺してしまっても問題ないです」

「わかりました」


「ではよろしいでしょうか? シンリーアの二人組がいつ王都に入るかについては警備隊に属するメンバーから連絡をもらう形にしています。いつ連絡を受けても動けるように、身構えておいてください」

「了解だ。俺はいつも通りトリッシュの所に行ってくるよ」

「ええ、お願いします。話が早くなるので助かります……」

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